翌日の朝

 何かに飲み込まれた気分だ。
 
 だが、悪くない。

 むしろ気持ちいい。
 
 長年のしかかってきたプレッシャーが無くなった気すらする。

 その代わりに、新たなプレッシャーが生まれた。

「……」

 すやすやと寝息を立てて寝ている二人の美人姉妹。

 混じりっ気のない乳白色の皮膚を持つ裸の二人。
  
 昨日のことを思い出すと、つい目を逸らしてしまう。
 
 にしても、二人ともよく眠っている。

 俺はそんな二人に布団をかけてあげた。

 すると、外から誰かがノックしてくる。

 二人の父の服を着ている俺はドアを開ける。
 
 そしたら、パジャマ姿の早苗さんがいた。

 長い亜麻色の髪、凶暴な体つき、化粧はしてないのに綺麗すぎる真っ白な顔。

 そして、俺を離さんばかりに捉えるエメラルド色の瞳。

「おはよう」
「……おはようございます」

 早苗さんは手を伸ばして、俺の肩を優しく掴む。

 それから、俺の足から頭に至るまで舐め回すような視線を向けて口を開いた。

「主人の服、着ているのね」
「すみません。寝るための服がなかったので、借りました」
「謝る必要はないわ。むしろ着てほしい。昔を思い出すから」
「……」
「でも、あなたは私の主人ではない。あなたはあなたよ。新しい家族なの」
「……」

 早苗さんの言葉があまりにも色っぽかったため、俺は口を噤んだ。
 
 そしたら彼女が後ろのベッドで安らかに眠っている娘二人を見て安心したように凶暴な胸を撫で下ろした。

「友梨と奈々、あんなに気持ちよさそうに眠っている姿を見るのは何年ぶりだろうね」
「……いつもはこんな感じじゃなかったんですか?」

 昨日のことを思い出した俺は、二人の母である早苗さんを直視できなくて、目を背けながら訊ねる。

 そんな俺に、早苗さんは優しい口調で説く。

「そう。二人は不安を抱いてきたの。お父さんの死による不安、そして大勢に見られるという恐怖」

 父の死は仕方ないと思っているが、大勢に見られて恐怖を感じているのか。

 つまり、二人は配信をしている時にずっと恐怖を感じてきたのか。

「配信ってそんなに大変ですか?」

 と、俺がそれとなく聞いた。

「配信だけじゃなくて、多くの人たちが見ている前で何かをするという行為自体が大変なのよ。ファンや視聴者たちが嫌がることをすれば、集団心理が働いて炎上しちゃうの」
「……よくある話ですね」
「だから、私たちはいつも仮面を被って生きていたんだ。仮面を被っている自分が本当の自分だと勘違いするほどに」

 なるほど。
 
 大人気インフルエンサー二人は数えきれないほどの人たちに気を使いながら過ごしてきたのか。

 人気女優の早苗さんも状況は同じのはず。

「それは、本当に大変ですね」
「そう。とても大変。でもね、祐介の前だと素を見せるの。ううん。見せたくなるの(・・・・・・)
「……」

 早苗さんは後ろから俺を抱きしめてきた。

 背中の上のところは、彼女の爆乳の乳圧に必死に抗っていて、下は早苗さんのお腹がくっついた。
 
 そして俺の尻には彼女の股間が当たっている。

 やべえ……

 全身が柔らかすぎて脳がふわふわする。
 
 そんな俺の耳に早苗さんが呟く。

「だからね、あなたは永遠に(・・・)私たちから逃れられない」
「っ!」
「理恵ちゃんもね。ふふふ。昨日理恵ちゃんと夜遅くまで話しててね、かわいい娘が一人できた気分なの」
「そ、それはよかったです……」
「そう。やっぱり子はかわいいよね〜作りたくなっちゃう(・・・・・・・・・)
「っ!」

 言って、早苗さんはもっと俺をぎゅっと抱きしめてくる。
  
 俺は当惑した。

 漂ってくる良い香りと柔肉に俺の理性が崩壊寸前にまで追い込まれた。

 すると、

「「……」」

 いつしか目を覚めた二人が俺たちにジト目を向けてる。

 俺は早速早苗さんから離れる。

「あら、二人とも起きていたのね。ご飯作るわよ」

 早苗さんは俺とみてクスッと笑ったのち部屋を出た。

 取り残された俺たち。

 二人は上半身を起こし、布団で自分の体を隠しながらいう。

「祐介、お母さんだから許すんだけど、他の女に手を出したら分かるよね(・・・・・)?」
「……」
「祐介くん、昨日、私たちにあんなこと(・・・・・)をしたのに、もし他の女に目移でもしたら、昨日撮った写真を私のチャンネルに上げちゃうわよ」
「友梨姉!それ洒落になんないから!」
 
 登録者数1000万人のチャンネルに昨日のアレをあげるのはマジで勘弁してほしい。

 ていうか、いつ撮ったんだよ。

 なんか急に二人が怖くなった。

 と、俺が戦慄の表情を浮かべると、妹の声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、なんで裸姿の二人見て変な顔をしてるの?」
「り、理恵!これはだな……」
「男子禁制だから!あっち行け!」

 理恵が俺の背中を押しながら、必死に俺を追い出そうとする。

「ひひひ、理恵ちゃんの言う通りだよ。祐介は外で待ってろ」
「理恵、お兄さんを追い出したら私たちといっぱい話そうね」
 
 二人は理恵にバレないように俺を見つめて

 小悪魔っぽく笑う。

 先が思いやられる。

 もし、俺たちの関係を三人のファンが知れば、どうなるんだろう。

 想像もつかない。

X X X

とある女性side

 金髪の美女は暗い部屋で、スマホを見ている。

 祐介のチャンネル。

 祐介がSSランクのダンジョンで活躍する動画を見ている金髪の美人はほくそ笑んで頬をピンク色に染める。

「やっぱり最高だよね。うふふ。なのにクソダンジョン協会は、この男を無能力者扱い」

 金髪の美女は自分の胸にそっと手を乗せて良がりながら言う。

「私が放ったキングゴーレムも倒せるほど強いのに〜はあ……」

 興奮する金髪の美女は画面上の祐介の頭をなでなでしながら言う。

「私のもの」