数日後

 俺は心の準備をしてからSSランクへと向かった。

 普段はいつも通って狩りをしているところだから緊張とかしないはずだが、今は違う。

「狩りだけをすればいいか……」

 奈々からのアドバイス。

 世の中にはさがくんみたいな人が多いわけだし、彼女の言葉を信じるべきだろう。

 本当に助けた人が友梨姉と奈々でよかった。

 二人は本当にいい人達だと思う。

 そんなことを思いながら俺はSSランクのダンジョンに入って、配信を始める。

 タイトルは『SSランクのダンジョンで狩りをするだけの配信』

 スマホは浮遊スキルで俺の頭の横に浮かせてある。

 久々に妹に美味しいダンジョン産の肉を食わせようではないか。

 うん。

 できれば友梨姉と奈々と早苗さんにも肉をお裾分けしてあげたい。

 美人姉妹。

 二人の笑顔と安心する姿をまた見たい。

 最近は俺の心の中で二人の存在が大きくなりつつある。

 理恵に優しい二人。
 
 思い出すだけでもとても心が落ち着く。

「……」

 すでに視聴者が100万超えてるのに何考えてんだ……

 俺は俺のやるべきことをすればいいんだ。

 気を引き締めていたら、俺の前にヘリコプターを彷彿させる物凄い音が聞こえる。

 厄介なやつが来た。

「ブウウウウ……」

 キングオオスズメバチ。

 SSランクに生息する最強蜂だ。

「……厄介なやつが来ましたね」

 と俺がスマホの画面とキングスズメバチを交互に見ながらいうと

『すげ……デカすぎだろ。2メートルは超えると思う』
『気持ち悪いくらいの大きさだ』
『あんなの見たことない……』
『毒針、めっちゃでかいんだろうな』
『音やば……完全にエリコプターじゃん』
『キングスズメバチの毒を持って来たら1000万円を報酬として出すみたいな依頼あった気する。誰もクリアできなかったが』

 みたいなコメントが流れる中、俺は早速解説を始める。

「奴はキングオオスズメバチです。攻撃手段はオオスズメバチと同じく二つです」

 というとキングオオスズメバチは凄まじいスピードで俺の方へ突撃する。

 俺は身体強化を使い、その攻撃を避けた。

 そして後ろを振り向くと、奴が口の中に岩を咥えてそれを噛み砕く。

「ブウウウウ!!!」

 細かく砕かれた岩は、あえなく落ちる。

「奴は強力な大顎を持っていて、ダイアモンドのような丈夫なものでも簡単に砕くことができます」

 俺が解説をしたら、攻撃に失敗したキングオオスズメバチが怒り狂った表情を浮かべて毒針を出しながら俺を攻撃する。

「っ!」
「ブウウ!!」
「早い……」
「ブウウ!ブウウ!!」

 奴はお尻を俺の方に向けて、毒針を放つように出す。

 毒針の先端からは黄色い毒が滴り落ちていた。

「やつの毒嚢にはフグの毒であるテトロドトキシンより1億倍強力な毒が入っているので、刺されると即死です」

 というと、反応がすごい

『でんこ様!危ないよ!逃げて!』
『フグの毒より1億倍はやばい』
『無理しちゃダメよ!』
『普通のオオスズメバチも危険なのに、あれはレベチすぎる』

 俺を心配する内容がほとんどだった。

「ふっ」

 鼻で笑った俺はやつのお尻周りを強く蹴り上げた。

「ブウウッ!」

 岩に突き刺ささるキングオオスズメバチ。

 だけど、こんな攻撃じゃ、奴に傷一つ与えることは出来ない。

「やつの体はとても丈夫です。なので、こんな物理攻撃は通じないといっていいでしょう」

 俺の言葉を証明するように、キングオオスズメバチは立ち上がって俺にまた飛んでくる。

「ブウウウウ!!!」

「こいつに弱点は……」

 奴がまた毒針を出しながら攻撃してくるが、俺はぐるっと回って避け、やつの翼に手を添える。

 そして、

「翼と熱です」

 いって俺はドレインで奴が翼に張っていた防御膜を無くした。

ファイアボール(・・・・・・・)
「ブウウウウウウアアア!!!」

 キングオオスズメバチは自分の翼が燃えて地面に落ちてのたうち回る。

 俺はそんなキングオオスズメバチを踏んづけて口とお尻にファイアボールをかけた。

「ブウウウウ!!!!」

 苦しむキングオオスズメバチ。

 やつを生かしたらフェロモンを放って他のキングオオスズメバチを呼び寄せることになる。

 なので俺はやつのお腹に拳を当てて深呼吸する。

『え、この動作は!?』
『おお!』
『でんこ様必殺技!!!』
『いけええ!!』

 俺の得意技

ワンインチパンチ(・・・・・・・・)


ブウエエエエエエエエエエエ!!!(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 キングオオスズメバチはもう声を上げなくなった。

 内部が燃えてるから毒はとっくに分解されているはずだ。

 やつの毒を取り出すには今の俺でも至難の業だ(できなくはないが)。

「そろそろスマホを……」
 
 俺は浮遊スキルを止め、スマホを手に取る。

「うわ……コメントすごいことになってる」

『かっけえええ!!!』
『俺もめっちゃまなびてえ!』
『ワンインチパンチのレクチャー動画作ってください!』
『でんこ様まじ格好いい……』
『でんこ様みたいな彼氏まじ欲しい』
『男でもこれは惚れる』

 でも、世の中にはおかしな人が多いんだ。

 いちいち反応したら、面倒事になりかねない。

 と、俺が気を引き締めていると、

 二人がスパチャを投げて来た。

『名無しYさんが100万円を投げました』
『名無しNさんが100万円を投げました』
 
 おお、またすごい額を投げてくれた。

 嬉しさ半分、緊張半分といった気持ちでメッセージを確認する俺。

『名無しNさんからのメッセージ:でんこ様の子供孕みたいです』
『名無しYさんからのメッセージ:でんこ様の奴隷になりたいです』

「ああ……」

 やっぱり友梨姉と奈々の言ったように視聴者の中におかしな女の人多いな。

 気をつけようぜ。