倒れたキングゴーレムを見て、俺は安堵のため息をついた。

「ん?」

 なぜかよく分からないが、特殊部隊の5人以外にも視線が感じられる。

 俺が周辺を見渡した。
 
 そしたら、制服姿の美少女が見えてくる。

 亜麻色の髪は肩まで届いて揺れており、鮮烈な青い瞳は俺を正確に捉えている。

 高校生にしはありえないほどの発育の良さ、美貌。

 彼女がいるだけでここは非現実的な場所と化した。
 
 そんな彼女に見つめられると、なぜか何かに取り憑かれた気分になる。

 なので、俺は足を動かして彼女のところへ行った。

「友梨姉……ここは危ないよ」
「ううん。そんなことないわ。だって、祐介くんが私の体に隈なく防御幕を張ってくれたじゃない。だから安全よ」
「いや、そうだけど……」

 俺が困り顔でいると、友梨姉はピンク色に染まった頬を隠すように俺から視線を逸らし、俺の腕を両手で掴む。

「友梨姉?」
「……」

 友梨姉は俺の腕を自分の爆のつく胸の方へ持っていく。

「っ!!友梨姉!何を……」
 
 鼻の中に入ってくる強烈なフェロモンと極上の柔らかさに俺は困り顔をした。

 友梨姉は俺に耳打ちする。

お疲れ様(・・・・)
「……友梨姉、人が見ているから、こういうのはあまり……」
「あら、人が見てないならしてもいいってこと?」
「そ、それは……」

 俺が言いあぐねていると、友梨姉は俺から距離を取って妖艶な笑みを浮かべる。

「連れて行ってくれるよね?家に」
「あ、ああ……約束したから」

 友梨姉を直視することはできなかった。

 視線を外した先には特殊部隊5人がいて、俺たちを見ている。

 うち、渡辺さんがドヤ顔をしてサムズアップしてくれた。

 そして、残りの隊員4人は俺たちに憧れの視線を向けていた。

 この5人以外の人に見つかると厄介だ。

 なので、俺は友梨姉の腕を掴んだ。

「ちょっと人のいないところへ行こうか」
「え?んん……大歓迎だけど、なんで?」
「ちょっと飛ぼうと思って」
「飛ぶ?」
「ああ」

 俺は5人の特殊部隊員に会釈をして、友梨姉を人気のないところへ連れて行った。

「住所教えてくれ」
「……うん。そうね。これからいっぱい通うことになるわけだし」
「ん?なんか言った?」
「ううん。なんでもないわ。ここよ」
「あ、ああ」

 友梨姉……スマホを俺に見せながら体くっつけるのやめてほしい。

 チャンネル登録者数1000万超えのインフルエンサーなのに、ガードが緩すぎだろこれ……

 住所はわかったわけだし、あとは

「友梨姉」
「ん?」
「ちゃんと捕まってろよ」

 そう言って、俺は友梨姉の背中に腕を回して強く抱き寄せる。

「あっ!」

「魔力ブースト!」

 唱えると、俺の足元からマナが燃焼することによる青い光が出てきた。

 それと同時に俺たちは高く飛び上がる。

 街を歩いたらきっと人に見つかってSNSで写真が出回るだろう。

 それは友梨姉にとってマイナスだ。

 そんなことを考えながら飛んでいると、友梨姉が自分の両足で俺の右足を絡めてきてきた。

 まあ、怖いのは仕方ないだろう。

「大丈夫。俺がちゃんと抑えているから落ちないよ」

 彼女を安心させるように言ったつもりだが、彼女は俺に耳打ちする。

「知ってる」
「っ!」
 
 じゃ、なんで足を絡めてくるんだよ……
 
 しかも、めっちゃいい香りするし……

 理性と戦いながら、やっと彼女の家に到着した。

 俺は彼女を下ろした。

 とても大きなタワーマンションだ。

 俺の役目はここで終わりだ。

「んじゃ、俺はこれで……」

 別れの挨拶を告げようとしたが、彼女が俺の言葉を遮った。

「まだ、家についてないわ」
「え?」
「私の家はこの建物の23階にあるの」
「……」
「ふふ、私との約束、守ってくれるんでしょ?」
「わかったよ……」
「いい子」 
「……」

 本当、背中がムズムズしてもどかしい。

 俺と友梨姉はエントランスに入りエレベーターで23階に登った。

 そして、玄関口を開く。

「ただいま戻りました」

 彼女の声を聞いて二人がそそくさ走ってきた。

「友梨!!」
「お姉ちゃん!!大丈夫!?」
 
 私服姿の奈々と早苗さん。

 二人の顔には不安と悲しみが混じっているように思える。

 だけど、

 俺の顔を見た途端、

 急に妖艶な表情になる。

「あら、ゆうくん……」
「祐介……」
 
 二人ははちきれんばかりの胸を撫で下ろした。

「祐介くんと話している途中、キングゴーレムが暴れてて……その、祐介くんが私を守りながらそのキングゴーレムを倒してくれて、私をここまで連れてきてくれました」

 恥ずかしがりながら早苗さんに言う友梨姉。

 自分の娘の反応を見て、早苗さんは俺の手を強く握って、自分のとてつもなく巨大な胸の方へ持ってきた。

「あっ」
「こんな毎回毎回私の娘を守ってくれるなんて……私、一体どうしたらいいのかしら……」
「俺は当然のことをしたまでで……だから気にする必要はないですよ!」

 やばい……

 手が溶けてしまいそうだ。
 
 そんな俺の鼻に早苗さんの息が入ってくる。

「ゆうくんにとっての当然は、私たちにとって唯一の救い(・・・・・)ですから」
「そんな、大袈裟な……」

 俺が早苗さんの胸から手を離そうとしたけど、もう一つの胸が俺の手を押しつぶす勢いでくっついた。

「祐介」
「奈々……」

 彼女は小悪魔っぽく笑って、俺を試すように見つめてきた。

「引越す予定とかない?」
「引越し?」
「ううん。なんでもない」

 相変わらず行動が読めない子だ。 

 と思っていると、早苗さんが俺の耳元で囁いた。

 うう、髪が俺の顔に触れているからくすぐったい。

「それよりゆうくん、今日はキングゴーレムを倒して疲れましたよね?よかったら、ちょっと中に入って休みますか?」 
「い、いいえ……理恵が待っているので……」
「あら、そう?」

 そうだ。

 俺には理恵がいる。

 一人しかいない俺の大切な家族が。

 だから、この3人に甘えるのは避けるべきだ。

 そろそろお暇しよう。

 と、俺が手を引こうとしたが、早苗さんが離してくれない。

「だったら、今度は理恵ちゃんと一緒に遊びにきてくださいね。娘を助けてくれたお礼にパーティーをやりますから」
「……」
美味しいもの(・・・・・・)もいっぱい用意しますよ」
「……」
「きっと理恵ちゃんも喜ぶに違いないから」

 ああ……

 なんだか、頭が朦朧として、なんで俺はこの3人を避けようとしてるのか理由がわからなくなった。

「わかりました。今度、妹と一緒にお邪魔します」
「うふふ……とっても賢い選択です」
 
 俺の耳に告げた早苗さんはやっと俺を解放してくれた。

 自分のお母さんにつられて奈々も俺から距離を取る。

「じゃ、祐介!今度、私たちの家でいっぱい遊ぼうね!」
「祐介くん、待ってるから」
「うふふ、ここを我が家だと思ってきてください」

 3人は手を振りながら微笑んでくれた。

 俺は躑躅家を後にする。

 やっと、約束を守ることができた。


 躑躅家side

「お母さん……私、待てない」
「はあ……祐介くん……」

 祐介の去って、二人は切ない面持ちでいる。

「大丈夫。もうすぐよ」
「「……」」
 
 母の艶かしい表情を見て、二人の娘は足をしきりに動かす。

「あと、理恵ちゃんには優しくしなさい。あの子はあなたたちの()になる予定(・・)だから。うふふ」

 早苗の言葉に早速友梨がくっついてくる。

「理恵……可愛い子……」

 そして奈々は頬をピンク色にして自分のお腹をさする。

「家族……めっちゃ作りたい」