サクラさんへの絶好の攻撃タイミングを、すかさずカットしにかかるシミラ卿。即席のコンビネーションだけど当然、このくらいはしてくるよねー。
 横目でわずかに視認できた騎士団長殿は、閃光がきらめくようなスピードと鋭さの突きを放ってくる。狙いは紛れもなく僕の顔。
 
 遠慮なしだね! まるで問題なく首だけ僅かに逸らしスレスレを回避。
 狙いが正確すぎるとね、逆に避けるのだけなら簡単なんだよー!
 
「…………!」
「っ! しかし!!」
 
 鼻先スレスレに回避したレイピアの、しかし刃は横を向いた水平状態だ。避けられても薙ぎ払う形で追撃をしてくるつもりだろう。基本だね。
 シミラ卿は努力の人だ。特別な才覚がなくとも積み重ねた修練で基本の技を必殺となるまで練り上げる。だから今の突きもここからの薙ぎも、すさまじい練度を誇る一撃必殺級の剣技と言えるだろう。
 
 ──僕クラスが相手でなければの話だけどねー。
 これさえ問題ない。僕は最初の突きを回避すると同時に腰を落とし、身を屈めた反動で思い切り頭を振ってレイピアを掻い潜る!
 
「!!」
「ちいっ──!?」
 
 即座に体勢を入れ替え体重移動、振り子の要領でレイピアの下を左右にステップしながらシミラ卿に接近、杭打ちくんをその体、みぞおちに密着させる。
 わずか1cm程度の隙間、これさえあれば上等さ──そこから腰、肩、腕、そして手首のスナップをフル回転させて鉄の塊を打ち込む!
 
「させんでござーる!!」
「!?」
 
 超至近距離からでも確殺を見込める打法技術を繰り出そうとした瞬間、今度はサクラさんがカットに入った。
 横合いから杭打ちくんめがけての大斬撃。大きくバネをつけて振り上げたカタナで、技術もへったくれもないとばかりに渾身の力で叩きつけてくる!
 
 ズガァァァン!! と轟音を立てて杭打ちくんが叩き落され打点がずれる、僕の体勢も同時に崩れる。
 そしてそこをすかさずシミラ卿のレイピアが煌めく。隙は逃さないよね、そりゃあさ!
 
「はあああああっ!!」
「…………!!」
 
 連撃連閃、無数の刺突の狙う先は寸分違わず僕の顔、それも右目か。マジで遠慮ないね、身体強化してるから突き刺さりはしないだろうけど、痛いものは痛いし怖いものは怖いんだけどー!?
 思わず顔を引きつらせながらしかし回避。頭を左右に振れば、先程同様狙いが正確すぎる攻撃だから簡単に避けれる。
 もっとフェイントとか入れなきゃモロバレだよ、モンスター相手ならともかくさあ!
 
「シャアアアアッ!!」
「っ!!」
 
 次いでサクラさんの斬撃も別方向、僕の側面から飛んでくる。こっちのほうがよほど手強い、いちいちフェイントを織り交ぜてくる!
 あなたはあなたで対人戦に慣れ過ぎだよー! 杭打ちくんを手首のスナップを利かせた高速ジャブで振り回して対応。ほぼ一瞬にして何発も飛んでくる斬撃をすべて撃ち落とす。
 
「す、すげえ……!」
「は、早すぎて見えねえけどとんでもねえのは分かる……こ、これがSランククラスのぶつかり合いかよ」
「杭打ちのやつ、Sランク並のを二人相手にして一歩も引いてねえ! なんであいつDランクなんだよ、おかしいだろ!?」
「杭打ちさん……! 頑張れ、杭打ちさん!」
 
 外野の声、特に冒険者達の歓声を聞く。はしゃいでるねー、まったく!
 そして最後のはヤミくんかな? 応援ありがたいけど騎士に聞かれたらまずいからそれ以上は止めとこうねー。
 
 でも、なんだか燃えてきたよー!
 さすがに二人がかりはキツいけど、逆に言うとこのくらいじゃないと張り合いがない。僕は目に力を込めながらもニヤリと口元を歪ませて、昂ぶる心を解き放つ心地でさらに動いた!!
 
「っ!!」
「何っ!?」
 
 ジャブで繰り出した杭打ちくんがサクラさんの斬撃を撃ち落とす、まさにヒットの瞬間に僕は動いた。
 一気に踏み込み、超加速のままにサクラさんに密着──押し込む形になるため必然的に、手に持つ刀は杭打ちくんで弾かれることになる。
 杭打ちくんの側面部分がサクラさんの眼前に迫る、このタイミング!!
 
 僕はそのタイミングで腕を折り曲げ、杭打ちくんの本体部分をサクラさんのこめかみに思い切りヒットさせた!
 肘打ちの要領だ、鉄の塊が彼女の側頭部を強かに打つ!
 
「は、あ──がっ!?」
「っ……終わり」
 
 ガッツリ当たって吹き飛ばされるサクラさん。しばらく、って言っても数秒程度かな? は脳震盪でも起こして動けないだろう。
 次いですぐさまシミラ卿へ向き直る。サクラさんが数秒でも動けない今、僕の相手は彼女一人だ。
 
 お行儀のいい剣術は、僕にとっては格好の獲物だよー……!
 なおも突きを放つ彼女の、レイピアに合わせて僕は杭打ちくんを振るった!
 
「なっ!?」
「────!!」
 
 レイピアの真っ直ぐな軌道に、上段からの振り下ろしでタイミングを合わせる。必然、シミラ卿の攻撃は杭打ちくんに阻まれ軌道を逸らす。そこが狙い目だ。
 そのまま僕は一気に右腕を振り上げた! 逸れたレイピアが彼女の腕ごと跳ね上がり、顔から胸元にかけてがら空きになる。
 そして振り上げた右腕、杭打ちくんの先端が指し示すのは──
 
「っ杭打ちぃっ!?」
「!!」
 
 ──完全に隙を見せたその、胸元!
 ステップ気味に足を踏み入れ、同時に腰、肩、腕を回して斜めに振り下ろす右腕。
 
「がっ────は、ぁあっ!?」
 
 吸い込まれるように叩き込まれる杭打ちくん。吹き飛ばされるシミラ卿。
 これで終わりだ……僕の目の前に、二人のSランク相当の実力者が転げ倒れ伏す。その姿に僕は、内心の冷や汗を拭う気持ちでそっと息を吐くのだった。