とんでもない話だよー。まさか僕等がいるこの大地が、古代文明のいた世界のはるか上空にあったなんて。
 それってつまりは元々の大地ってのははるかな地下にあるってことじゃん。僕達何万年と、土地ごと空中浮遊してるようなものってわけだね。

 で、となると頭の回りの悪い僕でもピンときちゃうよ。
 膜は塔の半ばあたりで展開されていて、そこから長い年月をかけて土やら何やらが堆積していって新しい大地を形成した、と。
 つまりそれってさあ。僕はレイアにたしかめた。

「……ちょっと待って。ってことは、今も膜はあって、それを張る塔があるってことだよね? それって、まさか」
「うん、そうだねソウくん……迷宮、と私達が呼ぶ世界各地の地下にある広大な空間。それこそはかつて古代文明人が神の怒りから逃れるために創り上げた塔、その成れの果てだよ」
「迷宮……が、古代文明の建てた、塔!?」

 もはや辛抱たまらないと、シアンさんが驚きの叫びをあげた。まさに今、僕ら冒険者達が長い年月をかけて探し求めてきた大迷宮の正体……
 そしてそれらがなんのためにあったのか、どのようにしてできたのかが明らかになったんだ。未知なるものを己の力で踏破したい、それゆえに新世界旅団を結成しようとしている彼女からすれば喜びも悔しさも伴う衝撃だろう。

 その場のみんな、彼女ほどでないにしろ完全に驚愕と混乱に惑っているように思えるよ。かく言う僕も、察したのは察したけどそれはそれとしてまさか! って気持ちでいっぱいだしー。
 僕らを見回して、リアクションに満足したのかレイアは自慢げに語る。

「膜自体が等の全長に対して半分くらいのところに張られているから、ざっくり半分だけだけどねー。あと当然土に埋もれてるから、なんだかんだ大半は土塊だろうけど」
「道理で、時折人工物が出土するはずだ……古代文明によるなんらかの人工物が関係しているとは予てより噂されていたが、よもやこの大地の成り立ちにも深く関わっているとはな」
「私も初めて聞いた時は驚きました。まあ、すぐに別の驚きに塗り替えられたんですけど」
「まだ何かあるのー……?」

 割ともうお腹いっぱいなんだけど、まだなんか明らかにすることあるのかなー。
 そろそろ頭がパンクしそうだよ、僕ー。

 古代文明人のやらかし、そしてこの世界の正体と大迷宮の真実……今の時点で盛りだくさんの真実なのに、この上さらに何やらあるみたいだ。
 苦笑いしながらも、レイアは僕の呻きに答えた。
 
「むしろここからが核心だよ、ソウくん。だってまだ、肝心な話ししてないじゃない。エウリデ王家と古代文明との関係ってところについてをさ」
「……たしかに。そもそもさっきの化物も王家が拵えたんでしょう、姉御? あんなもん一体、どうやって作ったってんです?」

 リューゼリアが僕に代わって尋ねる。そうだ、エウリデについての話がまだ残っていたよー。
 古代文明の産み出した罪業そのもの、とさえ言えるモノのコピーをどうやって作り出したのか。当代エウリデ国王、ラストシーンに至るまでにこの国、この土地で何があったのか。

 そして何よりおそらくは、古代文明人の遺した資料から真実を掴んでいるだろうレイアについても。
 一体何を見つけたのか。調査研究の末、何に気づいてしまったのか。そのへんについて、まだ彼女には説明することがあるんだねー。
 
「そこは簡単、王家にはノウハウがあったんだよ。連綿と受け継いできた、神を作るための技術がね。材料が揃ったのはつい先日のことみたいだけど」
「受け継いできた、ノウハウ? ──まさか、そんな」

 ノウハウが、元々王家には伝わっていた。
 それを聞いて様相を一変させたのがシアンさんだ。最初は意味が分かりかねると首を傾げていたけれど、程なくしてすぐに何かを気づいたらしく、顔色を変えてレイアを見つめる。

 ただごとじゃない様子だよー……すごく、すごーく、嫌な予感がするー。
 身近に迫った危機とかでなく、恐ろしくろくでもない話を耳にしちゃいそうな、胸が悪くなりそうな気のする予感だよー。怪談話を聞かされそうな嫌な予感って言うのかな、季節柄にはピッタリだけど怖いのは嫌だよー。

 なんとなし直感的な心地に顔が歪む。エウリデ王国の闇、その奥底のさらに底。
 深淵を覗き込むような心地になりながらも、僕はシアンさんを見つめていた。

「──よもやエウリデ王家の正体が、古代文明人の末裔だとでも言うのですか!? エウリデ連合王国を興した初代エウリデ王が、古代文明人だと!?」
「そうだよ、シアンさん。広義の意味では私達みんなが古代文明人の末裔と言えるけど……エウリデ王家の祖は完全にそのもの、古代文明人の生き残りだよ」
 
 はるかな時を経て蘇った古代文明人が、当時この土地にいた先住民を支配し服従させることで、このエウリデ王国を興したんだ。
 そう語るレイアにああやっぱりーって、僕は諦めにも似た想いを抱いた。