モニカ教授視点での"その後"……僕がいなくなってからの調査戦隊。
 それぞれの信じるところによって道を違え、そして崩壊したかつての仲間達の物語に僕はしばらく言葉を発せずにいた。

 レイア、ウェルドナーおじさん、ミストルティン、リューゼリア、カインさん、ガルドサキス、そしてワカバ姉。
 かつては僕も彼ら彼女らと一緒に苦楽をともにした。一緒に過ごし、一緒に戦いそして絆を深めていった。そんな彼らがお互いを罵り合い否定し合った末に喧嘩別れしたって事実を、これまで以上に深く、重く受け止める。

「…………」
「ソウマくん、大丈夫か? お菓子食うか?」
「紅茶もあるぞ、飲むといい。落ち込んだ時は飲み食いするのが一番だと、この無駄肉だらけの腹が教えてくれる」
「ケルヴィンくん……セルシスくん……」

 落ち込む僕を見かねて親友二人が気を遣ってくれる。クッキーを差し出してくれるケルヴィンくんと、ジョークを真顔で述べながら自慢のふっくらお腹を叩いてくれるセルシスくんと。
 二人とも軽いノリでいてくれるけど、瞳には隠しようもない心配の色が浮かんでいるねー……

 なんだか僕一人、ズルい気がしちゃうよー。
 僕こそが調査戦隊の仲間を滅茶苦茶にした張本人なのに、それなのにここでこうして素晴らしい友達や仲間に囲まれてぬくぬくしている。幸せなことだけど、幸せすぎて罪悪感をも抱えちゃうところはあるよ。
 そんな僕の心中を察してか、教授が座る僕に近づいてきた。優しく頭の上に手を置き、撫でながら慰めるように言ってくる。

「ま、そんな経緯があってねソウマくん。少なくともレジェンダリーセブンの7人については君そのものというより、初めて起きた外部からの干渉による追放措置を巡ってのイザコザで揉めて物別れになったわけだから、別に君のことを嫌いになっているとかではないんだよ」
「…………でも」
「言っちゃうとね、仮に君でなく誰が追放されてもああなっていたのは想像に難くない。結局調査戦隊は初めから、レイアリーダーの掲げる理想に依存しすぎていたんだよ。絆、友情、仲間……青臭い理想。だからこそその輝きに魅せられて集結して、そしてだからこそその理想に罅が入った時、そこが終焉の時だった」
「………………………………」

 言いたいことは、否定したいけど否定しきれないものだと今の僕なら分かるよ。調査戦隊は結局、レイア個人のカリスマと思想に寄りかかりすぎていたんだ。
 レイアにもレイア個人の考え方や感じ方、思想やスタンスがあって。でも彼女についていった者達は皆、各々の中のレイアを彼女に当て嵌めて慕ってしまっていた。

 優しくて強くて、仲間を大切にする"絆の英雄"。でもそれって誰から見た優しさで、何を基準にした強さで、何をもって仲間を大切にしていると捉えるんだろうね?
 そんなのは当然、人によって異なるんだ。なのにあらゆる立場からあらゆる人が、レイアに自分の理想を押し付けた……僕も含めて。
 だから現実にいるレイアが一つの選択をした時、それが理想のものと違うって怒り出す人だって出てきたんだ。ミストルティンみたいに。

 そんなの、うまくいくわけなかったんだ。
 教授の言うように、僕らははじめから彼女に依存しすぎてしまっていたんだ。
 とはいえ、と彼女が続けて話す。
 
「強いて言うならウェルドナー副リーダーだけは別か。あの人だけはレイアリーダーと元から親しかった、さながら親代わりのような人だからね」
「そう……だねー。おじさんだけは調査戦隊組織前からレイアに付き従っていたから。彼だけは、レイアに理想を押し付けずに現実を見ていたんじゃないかなー」

 大迷宮深層調査戦隊を一から構築した初期メンバーの一人に数えられるウェルドナーおじさんは、元々別パーティーにいた頃からレイアに付き従って行動していた。
 なんでも親戚の関係だそうだけど、おじさんはレイアのことを娘同然に可愛がってた節はある。そんなだからある種保護者的視点で、他の人達よりも彼女のリアルな実像を見ることができていたんじゃないかな。

「今でもリーダーに従い、各地を巡っているとは聞くけれど……」
「レイアでなければ彼がたぶん、一番に僕を恨んでるだろうねー」
「間違いない。娘みたいな子が組織し、栄光を体現していた調査戦隊を崩壊に導いた切欠みたいなものなわけだからね。そうでなくとも君に対しては、レイアさん絡みで冷静な判断を欠く傾向があったし。娘に溺愛される君への、父親代わりらしい嫉妬もあったってことさ」
「たしかに。僕とレイアが二人きりでいたらそれとなーく割って入ってきてたもんねー、あのおじさんー」

 今でも思い出すよ。僕っていうか男がレイアと二人きりだとすぐに割って入ってくるんだもん、あの人ー。
 それでいて別に男を敵視するわけでなく、むしろ男だけでの宴会なんかを率先して開いてたりしたなあ。なんか懐かしいや、いろいろ。