『話にならぬ! 絆の英雄、当世の神話などと持て囃された末がこれか!! レイア!! ウェルドナー!!』
『無惨に晒された同胞、絆! それらを護ってこその貴様らであろう、我らであろう! 日和りおって愚か者どもが……そんなに王族貴族の持て成しは心地良かったか!?』
『ミストルティンの目が曇っておったわ! 大迷宮深層調査戦隊など、所詮金と栄光に目が眩んだ豚どもの巣窟に過ぎなんだ! ミストルティンは故郷へ帰る! 精々腐れた栄誉に塗れて過ごせ、偽りの英雄ども!』
 
 
「────とまあそんな剣幕で」
「あっちゃあ……」

 予想以上のキレっぷりに思わず目を手で覆う。
 ミストルティン……よっぽど許せなかったんだね、そもそも報復するしないで揉めたことそのものが。
 
 彼女の中では僕が、というか仲間が権力によって追放されたって話があった時点で、エウリデ連合王国への報復を行うことは既定路線だったんだと思う。
 それがいざ調査戦隊で集結してみれば、報復することで生じるリスクを懸念するワカバ姉とウェルドナーおじさんを筆頭に報復反対派が結構いたりした、と。

 ケルヴィンくんが話を聞き、ミストルティンのあまりのキレ方に顔を引きつらせている。セルシスくんも無関係ながらどこか畏怖に慄き、呟いていた。

「ミストルティンさん……世界最強格の冒険者として名高い方ですが、本当に苛烈な方なんだなあ」
「彼女は辛辣でこそいたけど、誰よりも仲間や絆を重んじていたからね。卑劣に屈して去らざるを得なかったソウマくんを、護るどころか報復するかさえ定かではないという有様に……結局、誰よりも失望してしまったのがミストルティンさんだった」

 しかもレイアまでもがそれに押されてひとまず議論の場を設けたから、それもまた逆鱗に触れたんだろうねー。
 他のことでは物言いに反して割と寛大なあの人も、仲間を見捨てる行為には恐ろしく嫌悪感と憎悪を抱く。一度リーダーと仰いでついていった人がそんな選択をしたことに、彼女は我慢ならなかったんだろう。

 腕組みをして、難しそうに顔をしかめた教授はそして、分水領を超えた調査戦隊の末路を話す。
 
「それが契機となり、調査戦隊は一気に崩壊していった。元からしてレイアリーダーのカリスマと絆を重んじるスタンス、そしてウェルドナー副リーダーがそれを補佐する形で成り立っていた集団だったのだから、レイアリーダーのカリスマやスタンスが疑問視されれば後はもう、滅びるしかない」
「前提となる条件が崩れてしまったわけなのね……」
「ミストルティンさんの後、リューゼリア嬢、ガルドサキスくん、カインさんが立て続けて調査戦隊を離脱した。この3人は主に、エウリデへの報復を制止している副リーダーとワカバへの反発を理由としている。カインさんに至っては抜けるにあたり、報復派のほとんどを己のカリスマで引き抜いているね」
「カインさん、元メンバーでパーティー作ったんだねー……」

 カイン・ロンディ・バルディエート。レジェンダリーセブンの一人で、シアンさんと同じく貴族の身で冒険者になった人だ。
 飄々としたユニークな人柄ながら得物の槍の冴えは凄まじく、模擬戦なんかじゃリューゼにも時折勝ってたほどの人だねー。

 貴族だけあってカリスマも中々のもので、たしか元々別のパーティーを率いていたのを、レイアに出会って彼女にパーティーメンバーごとついていったって以前に聞いたことがある。
 そのカリスマを用いて分解寸前の調査戦隊から、ごそっと人員を引き抜いて再び別のパーティーを組んだってことなんだろう。そういう強かな動きは貴族的な頭の良さを感じるねー。
 
「……一気に中枢メンバーが半減、人員も大きく損ねた調査戦隊はそのまま空中分解した。私もカインさんが抜けたあたりで脱退したからそれ以降は知らないが、最終的にレイアリーダーとワカバが反目したことが決定打となり、完全解散へと至ったとは聞くよ」
「姫もその辺はちょいと言ってたでござるなあ。組織としての正解を選んだつもりが、最初の一手から間違えてしまっていたとかなんとか。ソウマ殿にも何度頭を下げても下げきれないと悔やんでいたでござる」
「そんな……」

 僕に謝るようなこと、何もありはしないのに。ワカバ姉……サクラさんと同郷のヒノモト戦士の姿を思い出す。
 きらびやかな花柄のヒノモト服をたくさん着込みながらも、軽やかにカタナを振るい敵を切り刻む美しい蝶のようなお姉さんだったなあ。
 
 彼女は元々、ヒノモトにおけるやんごとない一族のお姫様だったんだとか。ただ幼い頃から武芸に親しみ、やんちゃを続けていった結果なぜか冒険者になり、半ば出奔の形で国の外へと飛び出したんだとか。
 それでレイアと出会い意気投合し、調査戦隊入りしたって成り行きらしいんだねー。
 
 僕にとってもいつも優しくて、よく頭を撫でてくれるいい匂いのするお姉さんだった。
 そんな彼女が悔やんでるなんて……改めて、調査戦隊解散の爪痕の深さを感じちゃうよー。