車のクラクションが交差点で鳴り響く。

狼のアシェルとひよこのルークは、
たくさんの人が行き交う街の中を
歩いていた。

ビルの屋上にある
電光掲示板は透明なガラスのディスプレイ。
表示画面は瞬時に変わる。

LEDを採用されていて眩しかった。

斜めかけの黒いポーチを
黒のポロシャツの上に乗っていた。
青いデニムに銀色の
ウォレットチェーンが光る。

ルークは寝癖を少し立たせて、
あくびをした。

「なんだ、黄色。
 寝不足か。」

「…いつから私はイエローという名前に
 なったんですか。」

 目をギラギラと充血させて言う。

「俺は黄色と言ったけどな、ルーク。
 ボスにこき使われすぎじゃないの?
 スプーン作りが注文に追いつかないって
 オリヴァから聞いたぞ。」

「…ロボットに頼んでいた仕事が全部徹夜で
 僕がすることになっただけですよ。
 注文が殺到してる時に限って、
 ロボットが故障するんです。
 今、修理中なんですけどね。
 でも、なんだかんだで
 僕、仕事できますから。
 スプーン1000本くらい
 朝飯前ですよ。」

「は? 1000本?
 工場並みの注文数じゃねえか。
 ボスはわかってるのか?」


「…今、ボスは、出張中です。
 頼ろうにも後は任せたって…。
 ブラックの中でも漆黒企業ですよね。
 ハハハ……。」

 目の下のクマも目立っていた。
 ひよこでもクマがいるんだと
 マジマジと顔をのぞいた。

「あまり見ないでもらえます?
 体の震えが止まらないので…。」

「食べないよ。
 焼き鳥にしないと美味しく
 食べられないだろ?
 俺、ぼんじりって好きなんだよな。」

 青筋を立てて近づくアシェル。
 ひよこは、全身震えた。
 焼き鳥にさせられるのかと
 恐れた。

「ま、冗談は置いておくとして…。
 なんだっけ、クレアってやつは
 どこに行けば会えるんだ?」

「冗談キツいです。
 本当に食べられるかと思いました。」

 ルークは深呼吸を何度もした。

「だーかーらー。」

 アシェルはルークの真後ろに近付いた。

「ぎゃーーーー!!」

 顔が近くて本当に
 アシェルの口の中に入りそうだった。

「食べないっつぅーの。
 目的地を教えろって。」

「あ、あ。もう、顔近すぎですって。
 ただでさえ、
 寝不足で思考力も
 低下してるんですから、 
 優しくしてください。
 クレアさんがいるところは
 ここです。」

 ルークはスマホを取り出して、
 マップを表示させた。
 スマホ画面と空中にマップが
 浮かび上がる。

 この世界が下界のリアルワールドなら、
 クレアが住む世界は空にあるフロンティア。
 移動するには、気球に乗って空を
 登っていかないといけない。

 マップを表示する際、
 気球もうつっていた。

「まさか、この気球に乗って
 移動するつもりでは?」

「そのまさかです。
 フロンティアには気球でしか行けません。
 今日は天気も良いですし、
 上にあがれますよ。
 あ、アシェルさん?」

「俺、高所恐怖症なんだけど、
 どうしても行かないとダメなのか。」

「……。
 狼だから高いところ苦手ってこと
 ですかね。
 でも、交渉も仕事のうちです。
 ね?あなたはSpoonの社員ですから。
 頑張ってください。」

「へ?
 俺、会社の社員になった覚えは
 ないんだ…けど。
 やーめーーてーーー。」

 ルークのくちばしは、
 アシェルの首根っこの
 ポロシャツを思いっきり引っ張れている。

 身動きができない。
 もう後戻りもできない。

 アシェルとルークは気球の
 バスケットの中にフクロウの乗車員と
 ともに乗っていく。

 想像以上に早いスピードで空を登る。

 高いところから見える
 都会の景色は綺麗だったが、
 高所恐怖症のアシェルは
 怖くて、膝を抱えることしか
 できなかった。

 遠くの山の近くで虹が
 さしかかっていた。

 良いことがありそうだとルークは思った。
 横で膝を抱えて沈んでいるアシェルが
 いた。

 登っていく途中に雲海の中を
 気球ですり抜けていく。

 フロンティアの世界が見えてきた。
 
 小さな山から滝が流れ落ちている。

 湖では首が長い恐竜が顔を出していた。

 ルークも空の世界に来るのは
 初めてだった。

「アシェルさん、着きましたよ。」

「あー…。」

 ルーク以上にアシェルの顔は
 げっそりしていた。

 がっくり首を垂れた。

「ほら、行きますよ。
 クレアさんの家に交渉しに
 行くんですから
 シャキッとしてください。」

(無理、絶対無理。
 もう乗りたくない。この気球。)

 断固拒否するが、
 ルークは意地でも連れていく。

 ズルズルと体が引きずられていく。

 アシェルが通った道は跡が残っていた。