「幸い、そこまで支障はきたしていない。…またすぐに、歩けるようになるだろう」
そう言う先生の表情は、厳しいものだった。
クリップボードから顔を上げて、先生はベッドの上に座る日向をまっすぐと見つめた。
「…だが、大会出場は禁止だ。今後…走るスポーツを行うことを私は認める訳にはいかない」
「っ…!」
あたしは、漏らしそうになった声を必死に抑えた。
…日向と、日向のお母さんは何も言わなかったから。
まっすぐ、先生の目を見つめて言葉を受け止めていたから。
「…君には、これから先長い未来がある」
先生は丸椅子に腰掛けて、日向と視線を合わせた。
「…連鎖反応なんだ。また走れるようになったとしても、きっとまた同じことが繰り返される。
そんなことが続けば…何かの拍子に君の足が全く動かなくなるかもしれない」