…昼下がりの、病室。
「体の力を抜いて」
医師がそう言って、俺の足をゆっくりと上下させる。
一種のリハビリらしい。
いきなり歩く練習は無理だから、とりあえず動かす練習だとか何だとか。
「痛みがあったら、すぐに言うように」
「…先生」
痛い訳ではなかった。
ずっと静かに足を見つめていたけど、俺は遂に口を開いた。
「…世界が壊れるくらいに努力しても、走れるようにはなりませんか?」
「…」
答えを知りたい質問は、その一つだけだった。
…他の何もいらなかった。
「日向君」
「教えて…ください」
俺は…何を頑張ればいいですか?
…走れるようになるためだったら、何にでも縋りつく思いだった。