第二王子の秘密の親友

 魔導師学長と秀瑛自身が守りの呪文を焼き付けた割札をもつ雫以外は壇上から逃れるように後方へと逃げていった。

 様々な魔石が共鳴するように光を点滅させる。
 しかし魔導師学長が涼しい顔で腕を振るい、掌を天井に向かい掲げると、講堂全体が銀色の光に包まれて子供らすべての魔力の漏れを吸い上げ一瞬で握り取った。

 得たばかりの魔石が光を失い、先ほどの儀式で身を包んだばかりの魔力が抜けて虚脱した身体に驚いて泣き出す子供もおり、辺りを騒然とした空気が包む。

「皆、静粛に。魔導師は常に鷹揚自若たれ。己を制せぬものは魔力を制することは出来ぬ。その覚悟無き者は今すぐ魔石を返納しこの場を立ち去るがよい」

 その一言に一同正気を保って黙り込んだ。

「第二王子よ。なぜそれほどまでそのものに共鳴の儀を受けさせたいのですか?」

 老いてもなお、その魔力が衰えることなく、並の者なら畏敬を感じて対峙すらできぬと噂される人物だ。だがまだあどけなさの残る美貌の奥に闘志を燃やし、秀瑛は臆することなく静かな口調で語り掛ける。

「炎の魔力持ちの私が、雫を半身とも言うべき得がたい友と感じるからです。彼は必ずや水の魔石を得るでしょう」

「その論拠は? 口だけならば何とでもいえましょう。いくら貴方様といえ、成人前の身の上。父上のご威光無しに己の力だけをもって、ここでそれを証明することができるのですか?」
 
 頭ごなしに秀瑛の主張を一蹴することもできたはずだった。そうせず魔導師学長の魔導師としての老獪さよりも教育者らしい聡い眼差しに打たれ、秀瑛は胸に手を当て一礼した。

「先生のおっしゃる通り、今の私は何も持たぬ、ただの子どもです。私の言葉に耳を傾けられぬのは無理からぬことです」

 賢い少年はそう認め、ひたっとその美しい眼差しを魔導師学長へ向ける。雫は自分のために無理を通そうとしてくれている、友の潔く気高い姿をただ健気に見つめることしかできなかった。

「では、私のこの瞳を、その証として捧げましょう」
「殿下……」
「秀瑛! 」

 不退転の覚悟を決め魔導師学長を見つめる秀瑛の瞳は、一対の稀有な宝玉のように見るものを魅了する。さすがの魔導師学長も押し黙り、魔導師たちはありありと顔色を失い、あるいは真っ赤になって怒り、とんでもないことだと首を振る。 

(秀瑛は本気だ……)

『私が必ず、雫に魔石を手に入れさせてあげるよ』

 秀瑛はやると決めたらやる男だ。
 はじめは森に生きる雫と違い泳ぎも狩りもまるで不得手だったのに、雫と老師に絶対についていくと言ってきかずに、最後はたゆまぬ努力でどちらもものにしていた。自分の保身などお構いなしに、この場に雫を招聘したこと自体、彼の覚悟がよくわかる。

「だめだ!」

 信じられない申し出に最初は冗談だろうと子供たちはみな嗤っていたが、雫だけは違っていた。大きな瞳を怒らせながら威勢よく彼らを怒鳴りつけた。

「嗤うな! 秀瑛は嘘偽りを口にするような男じゃない」