不敬な発言だが、秀瑛と老師だけは静かに頷いてくれた。
(これを逃したら、一生秀瑛の傍にはいられない)
雫は決意に拳を握り締め、柱の陰から飛び出すと、呼び声に応じて前に進む。
突然その場に現れた泥あくたにまみれた少年の姿に一同がぎょっと目をむく。
魔導師も驚きを隠せないのは、秀瑛がその名を呼ぶまで割札が目くらましをして雫の姿を皆から隠していたからだ。雫もここに来るまでの他人の反応から、なんとなくそうだろうと感じていた。
雫は割札を握りしめ、森と湖どちらも映したような緑色の大きな瞳をまっすぐに友へと向ける。
友は微笑んだ。存在自体が鮮やかで、雫にとってはいつでもその下を歩くべき太陽のような存在だ。
「ここへ」
再び自分だけに呼びかけられた声に突き動かされ、雫はあえてわき目を振らず牡鹿ように力強く、秀瑛に向かって一直線に駆けだした。
(来たよ、ここまで来たんだ)
沢を越え、昏い森を越え、蝶の草原を越えて、ここまでたどり着いた。
(またお前に会いたかったから。お前の傍で一緒に成長したかったから)
自分が皆に歓迎されていないと見なくとも気配でわかる。
王子とは不釣り合いな、粗末な身なりの少年。
嘲笑が上がり、複数の視線が矢のように突き刺さってくる。それはとても好意的とは言えぬ、まるで森から出てきた獣でも見るような嫌悪と怖れが入り乱れる。
その上、魔石を持ちたての子供らの気が乱れ、渦巻く魔力の渦にありありと場の空気が変化した。気の弱いものはそのまま膝をつき、昏倒しかけるものまで現れる始末だ。
「お前、どうしてここに入ってこられた!」
第三王子は金色の瞳を見開いて雫を睨みつけてきた。高位貴族の子らが集まるこの場所は多くの魔導騎士が取り囲んでいるから疑問は無理からぬことだ。しかし雫の胸から下がった割札がまぎれもなく兄の文様が付いていることを見とがめると、嫉妬からさらに逆上して魔石を持ったままの腕を振り上げ叫んだ。
「よくもそんな汚らしい姿で兄上の名を呼んだな。恥を知れ! そいつを今すぐ捕らえろ」
またあの眩い光をその身体に漲らせた第三王子が叫ぶと、その隣にいた魔導師の一人が雫の行く手を阻むように立ちふさがる。
「雫は俺の大切な友だ。卑下することはお前であっても許さない」
黒いローブをまとった太い腕で雫の腕を掴み上げようとしたが、割札に焼き付けられた呪文が赤々と光ったとたんにまるで業火にあぶられたような熱気に阻まれ、手が出せない。
ひりびりと講堂全体の空気が熱くなる。秀瑛の持つ炎の魔力が周囲に影響を与え始めているのだ。兄の感情の浮かぶ声を聞くのは久しぶりで第三王子はぐっと唇を噛み締めた。
「共鳴の儀をこの者にも受けさせて下さい」
「秀瑛様。なにをおっしゃいます。共鳴の儀の参加者はあらかじめ選考に選考を重ねた……」
秀瑛は紫の瞳の中に炯々と赤い光を燃え上がらせ、取り巻きの魔導師たちを強く睨みつけると、ますます湧き上がる熱が激しさを増す。
(これを逃したら、一生秀瑛の傍にはいられない)
雫は決意に拳を握り締め、柱の陰から飛び出すと、呼び声に応じて前に進む。
突然その場に現れた泥あくたにまみれた少年の姿に一同がぎょっと目をむく。
魔導師も驚きを隠せないのは、秀瑛がその名を呼ぶまで割札が目くらましをして雫の姿を皆から隠していたからだ。雫もここに来るまでの他人の反応から、なんとなくそうだろうと感じていた。
雫は割札を握りしめ、森と湖どちらも映したような緑色の大きな瞳をまっすぐに友へと向ける。
友は微笑んだ。存在自体が鮮やかで、雫にとってはいつでもその下を歩くべき太陽のような存在だ。
「ここへ」
再び自分だけに呼びかけられた声に突き動かされ、雫はあえてわき目を振らず牡鹿ように力強く、秀瑛に向かって一直線に駆けだした。
(来たよ、ここまで来たんだ)
沢を越え、昏い森を越え、蝶の草原を越えて、ここまでたどり着いた。
(またお前に会いたかったから。お前の傍で一緒に成長したかったから)
自分が皆に歓迎されていないと見なくとも気配でわかる。
王子とは不釣り合いな、粗末な身なりの少年。
嘲笑が上がり、複数の視線が矢のように突き刺さってくる。それはとても好意的とは言えぬ、まるで森から出てきた獣でも見るような嫌悪と怖れが入り乱れる。
その上、魔石を持ちたての子供らの気が乱れ、渦巻く魔力の渦にありありと場の空気が変化した。気の弱いものはそのまま膝をつき、昏倒しかけるものまで現れる始末だ。
「お前、どうしてここに入ってこられた!」
第三王子は金色の瞳を見開いて雫を睨みつけてきた。高位貴族の子らが集まるこの場所は多くの魔導騎士が取り囲んでいるから疑問は無理からぬことだ。しかし雫の胸から下がった割札がまぎれもなく兄の文様が付いていることを見とがめると、嫉妬からさらに逆上して魔石を持ったままの腕を振り上げ叫んだ。
「よくもそんな汚らしい姿で兄上の名を呼んだな。恥を知れ! そいつを今すぐ捕らえろ」
またあの眩い光をその身体に漲らせた第三王子が叫ぶと、その隣にいた魔導師の一人が雫の行く手を阻むように立ちふさがる。
「雫は俺の大切な友だ。卑下することはお前であっても許さない」
黒いローブをまとった太い腕で雫の腕を掴み上げようとしたが、割札に焼き付けられた呪文が赤々と光ったとたんにまるで業火にあぶられたような熱気に阻まれ、手が出せない。
ひりびりと講堂全体の空気が熱くなる。秀瑛の持つ炎の魔力が周囲に影響を与え始めているのだ。兄の感情の浮かぶ声を聞くのは久しぶりで第三王子はぐっと唇を噛み締めた。
「共鳴の儀をこの者にも受けさせて下さい」
「秀瑛様。なにをおっしゃいます。共鳴の儀の参加者はあらかじめ選考に選考を重ねた……」
秀瑛は紫の瞳の中に炯々と赤い光を燃え上がらせ、取り巻きの魔導師たちを強く睨みつけると、ますます湧き上がる熱が激しさを増す。



