第二王子の秘密の親友

 秀瑛が炎の魔力を完全に我がものにできた時、彼がこの国の第二王子であり、力が制御できた暁には家族の元に戻るのだと知らされた。彼が森を去る前の晩のことだった。

 それまで庵を訪れる学者の中に雫のことを明らかに下賤の者と見下して、秀瑛の静かな怒りを買い追い戻されるものがいたので、彼の高貴な身の上を透かし見てはいた。しかしまさか雫がボロボロになるまで読み込んだ、歴史の本に出てくる王の末裔だとは思わなかったのだ。
 
 突然の別れに文字通り胸をかきむしられ、うろたえる雫の手を秀瑛は握り、掌の中に握りこまされた金属の札は、秘めたる心のように熱かった。

 今もまだ、雫の手を取り力強く握り、不安ごとうち砕くよう に強く誓われた言葉が耳に残る。

『これからも共に学び、共に研鑽し、共に生きていこう』
 
 そのためには、秀瑛の傍にいられるだけの、目に見える証を持たねばならない。

(クリスタルオーブの魔石に選ばれし、水の魔力を発動させる人間だと人前で証明せねばならない)

 雫は長い睫毛を瞬かせ、首から下げていた魔力の呪符が刻まれた割札を痩せた手で必死で握りしめる。

『お前ならば必ず、誰より強く水の魔力を発現できる』

 あれほど会いたかった友の姿に目は釘付けになりつつも、雫は首をいやいやするように首を振る。

(もし、出来なかったら?)

 丈の合わぬ下履きからすらりと伸びた足で後ずさりした。
 魔導師学長の前に立ち、その指に太陽の光を紡いだように輝く魔石を第三王子が純白のローブを翻し、学びの徒たちを振り返ると、得意げに掲げる。
 
「新たにこの学院に集いし子供たち、全員の力がクリスタルオーブより祝福を受け、ここに正式に魔法学院の……」
「お待ちください」

 変声期前だが不思議と精悍な響きがある秀瑛の声が、魔導師学長の言葉を強く遮った。
 誰もこのような事態は思いもつかなかったのだろう。ざわざわっと講堂に動揺が走っていく。

「兄上?」
 
 先ほどまでこの場の主役のような顔をしていた弟の戸惑う声をしり目に、秀瑛は全方位に向けて高らかに言い放つ。

「まだ一人、儀式を受けていないものがおります」

 今まで彼がこれほど声を張り上げたことを聞いたことがない。

「雫、そこにいるのだろう?」

 王者の風格を感じる気品あふれる声が講堂から窓を抜け雫の胸に心にまっすぐに突き刺さる。

(秀瑛が、俺を呼んでくれた)

 久しぶりに名を呼ばれ、友がまだ自分を思っていてくれたのだという感動と高揚感、そしてたっぷりの恐れにぶるぶるっと震えが駆け上った。 

『もしも父さんが子供のころに魔石を持てたら、すごい水の魔導師になったかもしれないって俺は思ってるんだ』
 
 そしてもしそうであるならば、母が命を落とすこともなかったのではないかと想像すると悔しくて堪らなかった。
 父だけではない。貴族と違い魔石を得ることのできぬ者の中にも隠れた才能を持つものもいるのではないだろうか。しかし身分の違いがあるこの国で、そんなことは口に出す者もいない。