第二王子の秘密の親友

 雫が秀瑛と出会ったのは離宮の奥深くに広がる、鎮守の森の奥。小さな湖近くに雫と父が寝泊まりし、森を手入れをして回るための粗末な小屋があった。
 その近くにある庵には、かつて炎を操る最強の魔導騎士団長として今なお尊崇される老師が隠居していた。そこに彼を頼ってやってきたのが幼い秀瑛だった。  
 聞けば過ぎたる魔力を得た後遺症で何日も高熱に浮かされた時、看病をしてくれていた最愛の母に、制御を失った力で消えぬ火傷を負わせてしまったのだという。
 
 孤独な二人は森の中で懐の広い老師に引き合わされ、雫は一目で彼に魅せられた。
 美しい造作、優雅な立ち居振る舞いにも心を奪われたが、それ以上に彼の帯びる色彩の虜になった。

「髪の毛、春に飛んで来る金色の小鳥の羽みたいにきらきらだ。目も葡萄みたいに艶々してて綺麗だ。傍でよく見せて」
 
 森の中では緑以外の鮮やかな色を目にし続ける機会は少ない。
 春先に蝶や鳥や小さな花、秋に木の実を見つけては、一期一会の色彩の美に雫は心を揺さぶられることが多かった。
 秀瑛は遠慮のない雫に戸惑った様子で僅かに頬をぴくりっとしただけだった。その後もあまりに無邪気に雫が接してくるので、我慢できず思わずといった感じに微笑むことも増え、雫にはそれが嬉しかった。
 雫の父は幼いころより森とともに生き、そこに住まう精霊の加護受けているのでささやかながら水の魔法を使えた。意識を集中させれば水脈の気配を感じて新たな井戸を引き当てることができそれを生業にしていたのだ。

 しかし貴族のように『共鳴の儀』で得たわけでない魔法を奮ってもそれは『魔導師』とは認められず、市井では異端とされ悪しきものからは搾取されるだけの力だった。 
 雫にもまた、森を愛し愛される者として森の精霊から水の加護を与えられていた。それに目を付けられ、幼い頃暮らしていた村はずれの山小屋から、かどわかされそうになった時、雫を守って母は命を落とした。
 それから父子は人目を避けるような生き方をしてきたのだ。
 そんな父が老師との出会いもあり、何とか得た仕事がこの森の番人だったのだ。

 森での暮らしは幼い雫には物寂しくもあった。しかし自分のせいで妻を亡くした父に友が欲しい、外の世界を見てみたいなどと口が裂けても言えなかった。

 寂しい心を抱えていた雫の前に現れた秀瑛もまた、美しい貌に感情の色だけ亡くしたまま、ひたすら魔力の制御を積むべく心身の鍛錬に邁進しているところだった。

(俺と似てる、寂しいって口にするのを我慢してる)

 その懸命な姿は鏡合わせで自分自身を見ているようで雫は堪らない気持ちになった。

 代わる代わる森を訪れる個性豊かな学者の元、互いに剣術を競い、魔力の基礎を学んだ。
 共に森の中を駆け回って遊び、花々咲き乱れる蝶の丘で共に駆ける。暑い夏には湖で共に泳ぎ、雷鳴響く秋の嵐、雪降る凍てつく晩には身を寄せ合った。
 
 夢もできた。自らの力を試しながらこの国を出て旅をして回りたい。本や地図を広げて白い花が咲く森の切れ間の草原に寝転んでは青い空に流れる雲を指さし夢を語り合う。

「私の終生の友はお前だけだ」
「うん」

 水の気配の濃い雫が傍にいる時は、秀瑛は笑い叫び自らを開放しても、魔力が暴走することはけしてなかった。
 雫もまた生来の朗らかさを取り戻していった。それが互いの心身の成長にも良い影響を及ぼした。
 そうして瞬く間に月日がすぎた。