群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬で振り向かせたい!

「敷島さん、次はどうしよっか?」
 
 黒磯くんが、私に聞いてくれた。
 
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた! 私が群馬に迷える子羊を導いてやろう!」
 
「…… お願いします神さま」
 
「なにその沈黙はっ! まあいい…… 次は、高崎に戻るわよ」
 
「え、戻っちゃうの? 温泉入ってないのに?」
 
 黒磯は、不思議そうな目で敷島を見つめる。
 
「あー、伊香保にいてもいいんだけどね…… 高崎パスタが食べたくなっちゃって」
 
 そう、高崎はパスタが有名なのだ。オシャレなお店もたくさんある。
 
 伊香保で和を楽しんだあとは、高崎で洋を楽しむってわけ。さすが世界の群馬!
 
「そう、ならいいけど…… うん、行こうか」
 
 
 
 黒磯は、内心ちょっと残念だった。
 
「敷島さんと、足湯入ったり、したかったなあ……」
 
 まあ、またの機会だな……
 
 
 上越線に乗って、二人がのそのそと高崎にやってきた頃、もう十五時を回っていた。
 
「たっかさきー、たっかさきー、ふふーん」
 
 めっちゃご機嫌な神さま。
 
 こんな可愛い、破壊的な笑顔を見せられたら、俺は目を逸らすしかない。
 
 改札内のコンビニを見つめるように、目を逸らしていると……
 
「なあに、黒磯くん、その新聞欲しいの?」
 
 敷島さんが不思議そうに尋ねてきた。
 
「あ、いや、えーっと」
 
 当然、笑顔が可愛くて目を逸らしていただけとは言えず、口籠る俺。
 
「いいよねー! その新聞、いかにも『ぐんまっ!』って感じ」
 
 なんだその例えは。栃木出身の俺には分からないな……
 
「私は毎日買ってるよー! 好きすぎて敷島公園の野球場行っちゃうくらい!」
 
 まったく分からない。地元の方ならわかるのだろうか。
 
「よし、じゃあ初デート記念に、二部買ってこ?」
 
 そういうと、敷島さんは新聞を引っこ抜き、さっさとレジへ行く。
 
 ほんと、行動力ある子だよな…… 江戸っ子だからかな?
 
 ふとそんなことを思った俺。しかし、すぐにフリーズしてしまった。
 
「で、っっで、デート⁉︎ 敷島さん、そんなつもりだったのかっ⁉︎」
 
 思わず声が出てしまった。え、俺のこと好きなの?
 
 そんな淡い期待を抱いてしまう俺。そこへ……
 
「お待たせー、釜めし買ってきたから、一緒に食べよ?」
 
 なぜか、女神さまが釜めしを買ってきた…………
 
 コンビニ近くの駅弁屋の袋をぶら下げて、はにかむ敷島さん。
 
「え、パスタじゃないの?」
 
 そう、高崎にはパスタを食べにきたはず。
 
「………… あ、ああ…… そ、そう、忘れてた……」
 
 あー、女神さま、やっちゃったね。
 
「まあ、公園でも行って、ベンチで食べるか」
 
「うん! ありがとう! この釜めし、歴史が詰まって、美味しいんだよっ!」
 
「そ、そうなのか…… まあ、行こうか」
 
 それから、ちょっと長く歩いて、公園にたどり着く。
 
 敷島さんが慣れた道のりと言わんばかりに、ずんずん進むので、必死に追いかけた。
 
 
 
 公園に着き、ちょっと古いベンチに腰掛けて、袋から釜めしを取り出す。
 
 そよ風が吹いて、気持ちがいい。おっきな公園だなあ……
 
 女神さまの横に並んで、手を合わせる。
 
「「いただきます!」」
 
 陶器みたいな容器の蓋を開けると、色とりどりの具材が盛りだくさんで、とっても美味しそう。良い香りがするし、華やかだ。
 
「んー! やっぱり美味しいなあ!」
 
「美味しい、美味しいなっ!」
 
 もう夕暮れどきの昼食、歩いた分も相まって、美味しさ抜群だ。
 
 二人は、静寂に包まれた。このおいしさは、人を泣く子も泣かない子も黙らせる旨さだ……
 
「「ご馳走様でした!」」
 
 袋にしまい、片付けていると、敷島さんが言った。
 
「うすいとうげ、の歴史、知ってる?」
 
「うーん、なんとなくね。今は無くなっちゃったけど、大人気だったんだろ?」
 
 そう、と敷島さんは、昔を語るような顔で話す。まるで、幼少期を思い出すかのように。
 
 俺は、桔梗色の髪を揺らす、神さまのお告げを待った。
 
「うすいとうげはね…… 世界の峠なの」