敷島はドキッとした。
面と向かって、好きな男の子に私の秘密を聞かれるのは。
「うん、話すね…… 神さまっていうのは……」
私は、そっと黒磯くんの頭に触れる。
「私はね、遠い昔。浅間山の麓で暮らしていたの」
「……」
「家族みんなと、幸せに暮らしていた。田んぼを耕して、木の実をとって。とにかく、毎日が大切な思い出なの…… でも……」
やっぱり、この話をする時は、いつも泣きそうになる。今のお父様、お母様に伝えたときも、大泣きした。
「二十歳のとき、浅間山が噴火して、大変なことになっちゃったの……」
「…… 江戸時代か……」
「私は、家族と必死に逃げたの。火砕流が迫ってたから。で、なんとかみんな、逃げ延びたの」
「……」
「そのあとは、今の前橋あたりで、家族を助けてくれた人の家で暮らしたの」
「……」
「私は村には戻らなかった。だってもし、私の大切な友だちが、犠牲になっていたら…… うう」
ああ、また泣いてしまった。黒磯くんの前なのに。
「だから、毎日神社で、お祈りしたの。私の、大切な人を、助けてって、」
「…… 敷島さん……」
「そしたらね、ある日、神さまが目の前に現れたの。神さまはね……」
「……」
「君は、誰よりもこの場所を愛していたはずだよ。だから、この場所の神さまにならないか? って、」
「…… それで承諾を……」
「うん、私は、とにかくみんなを助けたかった。だから、神さまになって、地元のみんなを元気づけようって。すぐに頷いたの」
「……」
「そしたら、ふっと身体が軽くなって…… 気がついたら空を飛ぶ神さまになってたの」
「…… それは、いつまでか?」
「西暦二千年までかな、だから、私もわからないの。こうして、また人間として生きていられることが……」
黒磯は、そうか。とだけ言い、敷島を黙ってじっと見つめる。
「ごめん、私ったら…… せっかくの楽しい旅行中に、重い話して、ごめん!」
「いや、そんなことはない。大丈夫だよ」
それに、と黒磯は続けて、
「俺に話してくれて、ありがとう。辛かっただろう?」
その一言で、敷島の目は涙で溢れた。
「うう…… うう、あ、あり、ありがとう……!」
バスが来るまでの束の間、元女神さまは、黒磯にわんわん泣きついた。
黒磯に、困惑の感情は不思議となかった。
ただ、寂しそうな敷島さんを、黙って受け入れた。
間もなく、敷島は泣き止み、伊香保行きのバスに乗り込む。
爽やかな涼しさの車内。まだまだ外は蒸し暑い。
私は、車内の空調に晒されて、気持ちを整理する。
「私…… 実はね、そんなに「神さまの自分」も嫌いじゃないの。でも、また人間として生まれたのは、役目があると思うの」
ぽつりぽつりと、残りの気持ちを吐き出す。
「だって、誰よりも群馬を愛した証だから。みんなに、すっごい群馬を布教するために、また、生まれてこれたの!」
「…… よかったな」
「うん、私のお父さんもお母さんも、私を受け入れてくれた。前世の良さ、辛さ、そして今も、全部」
敷島は、幸せ者だ。とっても幸せな女の子だ。
だからこそ、自分だけがまた幸せになっていいのか、という辛さも抱えていた。
今も、群馬を見渡す、雄大な浅間山。とってもきれいだ。
群馬の神さまは、まだ…… 帰ることはできていない。たまには、布団で泣いてしまうよ。
でも、私はね、大丈夫。新しい家族、黒磯くん、そして出会ったみんなも、とっても大事な仲間だから。
今を精一杯生きて、みんなに群馬の良さを、一緒に知る。
そして天国でまた、江戸っ子のみんなと、神さまになってから、離れ離れになった産みの親に、いっぱい今の素晴らしい群馬を伝えること!
それが、私の夢。
だから、これからも、私は群馬を伝え続ける!
そして、私も、群馬を知り、学び、全力で楽しむよ!
さあ、そろそろ伊香保だね。私の冒険は、始まったばかりだよっ!
面と向かって、好きな男の子に私の秘密を聞かれるのは。
「うん、話すね…… 神さまっていうのは……」
私は、そっと黒磯くんの頭に触れる。
「私はね、遠い昔。浅間山の麓で暮らしていたの」
「……」
「家族みんなと、幸せに暮らしていた。田んぼを耕して、木の実をとって。とにかく、毎日が大切な思い出なの…… でも……」
やっぱり、この話をする時は、いつも泣きそうになる。今のお父様、お母様に伝えたときも、大泣きした。
「二十歳のとき、浅間山が噴火して、大変なことになっちゃったの……」
「…… 江戸時代か……」
「私は、家族と必死に逃げたの。火砕流が迫ってたから。で、なんとかみんな、逃げ延びたの」
「……」
「そのあとは、今の前橋あたりで、家族を助けてくれた人の家で暮らしたの」
「……」
「私は村には戻らなかった。だってもし、私の大切な友だちが、犠牲になっていたら…… うう」
ああ、また泣いてしまった。黒磯くんの前なのに。
「だから、毎日神社で、お祈りしたの。私の、大切な人を、助けてって、」
「…… 敷島さん……」
「そしたらね、ある日、神さまが目の前に現れたの。神さまはね……」
「……」
「君は、誰よりもこの場所を愛していたはずだよ。だから、この場所の神さまにならないか? って、」
「…… それで承諾を……」
「うん、私は、とにかくみんなを助けたかった。だから、神さまになって、地元のみんなを元気づけようって。すぐに頷いたの」
「……」
「そしたら、ふっと身体が軽くなって…… 気がついたら空を飛ぶ神さまになってたの」
「…… それは、いつまでか?」
「西暦二千年までかな、だから、私もわからないの。こうして、また人間として生きていられることが……」
黒磯は、そうか。とだけ言い、敷島を黙ってじっと見つめる。
「ごめん、私ったら…… せっかくの楽しい旅行中に、重い話して、ごめん!」
「いや、そんなことはない。大丈夫だよ」
それに、と黒磯は続けて、
「俺に話してくれて、ありがとう。辛かっただろう?」
その一言で、敷島の目は涙で溢れた。
「うう…… うう、あ、あり、ありがとう……!」
バスが来るまでの束の間、元女神さまは、黒磯にわんわん泣きついた。
黒磯に、困惑の感情は不思議となかった。
ただ、寂しそうな敷島さんを、黙って受け入れた。
間もなく、敷島は泣き止み、伊香保行きのバスに乗り込む。
爽やかな涼しさの車内。まだまだ外は蒸し暑い。
私は、車内の空調に晒されて、気持ちを整理する。
「私…… 実はね、そんなに「神さまの自分」も嫌いじゃないの。でも、また人間として生まれたのは、役目があると思うの」
ぽつりぽつりと、残りの気持ちを吐き出す。
「だって、誰よりも群馬を愛した証だから。みんなに、すっごい群馬を布教するために、また、生まれてこれたの!」
「…… よかったな」
「うん、私のお父さんもお母さんも、私を受け入れてくれた。前世の良さ、辛さ、そして今も、全部」
敷島は、幸せ者だ。とっても幸せな女の子だ。
だからこそ、自分だけがまた幸せになっていいのか、という辛さも抱えていた。
今も、群馬を見渡す、雄大な浅間山。とってもきれいだ。
群馬の神さまは、まだ…… 帰ることはできていない。たまには、布団で泣いてしまうよ。
でも、私はね、大丈夫。新しい家族、黒磯くん、そして出会ったみんなも、とっても大事な仲間だから。
今を精一杯生きて、みんなに群馬の良さを、一緒に知る。
そして天国でまた、江戸っ子のみんなと、神さまになってから、離れ離れになった産みの親に、いっぱい今の素晴らしい群馬を伝えること!
それが、私の夢。
だから、これからも、私は群馬を伝え続ける!
そして、私も、群馬を知り、学び、全力で楽しむよ!
さあ、そろそろ伊香保だね。私の冒険は、始まったばかりだよっ!
