群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬で振り向かせたい!

「今、わたしのこと好きって言った?」
 
 高崎駅へ伸びる道。二人の間に沈黙が流れる。
 
 やってしまった。言ってしまった。え、ど、どうしよう。
 
「あ、えっと、そのだなっ」
 
 俺は、必死に弁明を試みるが、
 
「いい。ちゃんと言って?」
 
 じーっと、紫に輝く大きな目。その瞳には、俺が映っている。
 
 何百年という長い時を見てきた、その潤んだ瞳が、俺を見ている。
 
「…… 言って。本当に嫌でないなら、ちゃんと話して」
 
 俺を諭す女神さま。その表情は、怖そうな、幸せそうな、つらそうな。
 
「わかった。ちゃんと言う」
 
 ああ、俺も、いつかは誰かにそうするんだろう。って思っていた。
 
 その時が、生まれてから一六年目、高崎市にて。
 
「俺は、今日一日、本当に楽しかったです。女神さまと旅行できて、本当に嬉しかったです。出会った時から、とっても明るく輝く榛名さん。何百年と生きて、辛いこともたくさんあったと思う。でも、何百年生きていてくれたから、出会うことができた。俺は、そんな運命のあなたを、これからも最高の笑顔にできるよう、全力投球で頑張ります」
 
「っ……」
 
「俺は、敷島榛名さんが、大好きです。一目惚れでした」
 
 ああ、終わった。俺の、神さまへの宣誓が。
 
「……黒磯福真さん、お気持ちを受け取りました」
 
 行き交う車のライトに、女神さまが照らされて、
 
「こちらこそ、大好きです。福真くん。私と、付き合ってくれますかっ!」
 
 榛名の満面の笑顔に、涙が滴っている。
 
 そして、桔梗色の髪を揺らし、勢いよくお辞儀された。
 
 こちらに伸ばされた、白い、小さな手は、俺を待っている。
 
「よろしくお願いします」
 
 俺は、優しくその手を握り返し、紫の瞳を見つめる。
 
 敷島さんは、ちょっと顔を背けて、恥ずかしそうに、ぼそっと言った。
 
「高崎駅まで、初デートだね」
 
「うっ……」
 
 破壊的な一撃を喰らった俺。なんとか喉から声を出す。
 
「そうだね。行きましょう、女神さま」
 
「うん、エスコートしてね?」
 
「いや、あなた実質、群馬の守護神でしょう……」
 
 俺がそう返すと、敷島は、ふふっと笑って。
 
「ふふっ? 私はサッカー得意なんですから! ペナルティキックは通さない!」
 
 …… そっちの守護神か。この子、野球とかスポーツ好きだよなあ。
 
「それにしても、新学期からわずか二週間くらいの、初回旅行で告白か……」
 
 俺がそう言うと、一瞬「?」と首を傾げた彼女。
 
 でも、すぐに笑みをこぼして、
 
「いいえ、あなたとの運命は、江戸時代から決まってましたから。長すぎたくらいですよ」
 
「…… そうか。待たせてごめんな」
 
「いえいえ、迎えに来てくれて、ありがとう。あ、そうだ!」
 
 すると、女神さまは何か思いついたように、
 
「あなたを『ぐんま布教特別大使』に任命します!」
 
「…… 一応足利市民だが」
 
「いいの! 栃木も兼任できるから! じゃあ、君も布教、頑張ってね」
 
 ロータリーに差し掛かり、高崎駅はもう目の前だ。
 
「じゃあ、今日はありがとね! 私、お母さんのとこ行くから!」
 
 見ると、もうロータリーに、車が止まっていた。
 
「ああ、気をつけてな」
 
 俺がそう言うと、彼女は、じゃあね、と去ってゆく。
 
「こんにゃく、いただきますっ!」
 
 と付け加えて。
 
 さ、俺も足利へ帰りますか。楽しかった。
 
 明日から、また学校だ。よし、頑張るか。