紗子は失意の余りに立っていられず、その場に膝をついた。
「すーちゃん!」
寧々が紗子へと駆け寄る。
愕然と俯いて震えている紗子へと寧々は耳元で、「――ざまあ」と囁いた。
紗子は目を見開いて、寧々へと目線の先を移行する。
寧々は涙を流しながら薄らと笑っていた。
「本当は卒業直前まで友情ごっこを続けて、あなたを退学に追い込む計画だったけど、予定が早まったわ」
「友情ごっこって……?」
「私、あなたのことが大嫌いだったの」
寧々は小声ながらも、紗子の瞳を見て、はっきりと言い放つ。
紗子は下唇を噛みしめた。
その間も会場は紗子を非難する声が数々飛んでいる。
「家柄もなく、祓いの力も最底辺。そのくせ真面目に努力していれば、いつか報われると信じている――健気に私は頑張ってますって態度をみるたびに、いつも苛々させられたわ」
紗子にしか聞こえない声で、寧々は嘲笑う。
麗菜を始め、皆に”ザコ”と馬鹿にされても寧々だけは紗子の味方でいてくれた。
しかし、それらは全てが偽りであったと。
余りにも淀みなくすらすらと紡がれる寧々の悪意に紗子は耳を塞ぐことも出来なかった。
「よりにもよって、あなたごときが天上界の皇太子殿下に求婚されるなんて……」
(凌雅様……)
紗子は無意識にも凌雅のほうを見られずにいた。
このようなことになり。凌雅に失望されていることは余りにも明確で、その顔を見ることが何より怖かった。
「これで殿下も目を覚まされるわ。あなたは間違いなく退学でしょうし、何より、こんな不祥事を起こした子を皇族の一員にするなんて天上界が認めるはずないもの」
余りもの絶望感に紗子の思考は完全に止まっていた。
血の気が引き、考えること事態すら放棄してしまう。
「今まで楽しませてくれてありがとう。さようなら”ザコ”さん」
寧々は耳元で紗子にだけ伝えると、紗子から離れた。
「皆さん、すーちゃんのことは責めないであげてください! 異能の才がないばかりに、きっと追い詰められて、禁札を使ってしまっただけなの!」
寧々は涙ながらに会場の真ん中で大声を上げた。
披露の儀で不正を起こした友だちを庇う優しい少女として皆の目には映っているだろう。
「寧々さんって、なんて素晴らしい子なのかしら」
「それと比較して、本当に”ザコ”って最低な子よね」
「人間性が悪すぎるわ」
まさに四面楚歌だった。
皆が紗子の敵に感じられる。
「――さあ。行こうか」
教員に腕を引かれ、紗子は立ち上がる。
その時、腹の底にまで響くような爆音が演武場を大きく揺らした。
会場の面々が一斉に顔を上げる。
「今の音って何?」
「外で何かあったのかしら」
ざわめきが広がった次の瞬間には「きゃあああ!!」女生徒の悲鳴が響き渡った。
演武場の出入り口付近で、人々が雪崩をうつように後ずさる。
次の瞬間には激しい音と共に演武場の天井の一部が破壊された。
瓦礫が演武場に落下していく。
紗子も頭を守りながら、体を伏せた。
「呪見だ!!」
演武場の出入り口と穴となった天井の二箇所から呪見が群れのように大量に入り込んできた。
どれも禍々しい気配を帯びている。
学園で管理している呪見ではない。
空から襲来する呪見には翼が生え、飛び回りながら観覧席へと向かっていく。
演武場は、あっという間に阿鼻叫喚となっていた。
「きゃあ!」
「出口へ殺到しないで! 順番に非難を」
逃げようとする者が入り乱れて、会場のあちこちで人が倒れていく。
教員が統率をとろうとするが、次々と呪見が現れ人間を襲う。
教員や一足早く冷静になれた生徒たちが祓いに転じるが、なにぶん数が多すぎて追いつかない。
紗子は恐慌状態の会場を身を竦めながら見回していた。
「――皆様、どうかご自身の身を守ることを優先してください」
上から声がしたかと思うと、一瞬の閃光とともに宙を羽ばたいていた呪見が数体一気に姿を消す。
凌雅に随行していた天上人の一人だった。
その天上人に応じるように次々と他の随行者も立ち上がる。
彼らが演武場に散開すると、呪見たちへと向かって力を放つ。
眩い光が、あちこちで演武場を駆け抜け、あれだけ大量にいた呪見たちが、あっという間に天上人の手によって消滅していく。
「……すごい……」
紗子はその光景を見つめて思わず呟いていた。
下界の人間の祓いとは全く違う。
祓札を用いることもなく、次々と呪見を消し去ってしまう。
天上人の実力は余りにも圧倒的だった。
収拾がつかなかった会場内に少しばかりの安堵が広がっていく。
会場内の呪見が天上人たちの手によって討伐された時だった。
周囲の空気がもう一段階、重く沈む。
「な、何……あれは」
天井の穴が大きな影で塞がれ、会場中の照明が落ちて暗がりに支配される。
ぎょろりと巨大な目玉が演武場を不気味に覗き込んだ。
「特等呪見だ!!」
会場が再び恐怖に突き落とされる。
特等呪見は呪見の中でも災厄級の力を持つ。
先ほどまで呪見を倒していた天上人たちの表情も変わった。
「――下がってろ」
低い声が響く。
凌雅だった。
上座から静かに立ち上がると、頭上の特等呪見へと視線を向けた。
凌雅の美貌は平静そのものだが、どこか煩わしそうであった。
「――全く、俺の意に沿わないものばかり見せてくれる」
「すーちゃん!」
寧々が紗子へと駆け寄る。
愕然と俯いて震えている紗子へと寧々は耳元で、「――ざまあ」と囁いた。
紗子は目を見開いて、寧々へと目線の先を移行する。
寧々は涙を流しながら薄らと笑っていた。
「本当は卒業直前まで友情ごっこを続けて、あなたを退学に追い込む計画だったけど、予定が早まったわ」
「友情ごっこって……?」
「私、あなたのことが大嫌いだったの」
寧々は小声ながらも、紗子の瞳を見て、はっきりと言い放つ。
紗子は下唇を噛みしめた。
その間も会場は紗子を非難する声が数々飛んでいる。
「家柄もなく、祓いの力も最底辺。そのくせ真面目に努力していれば、いつか報われると信じている――健気に私は頑張ってますって態度をみるたびに、いつも苛々させられたわ」
紗子にしか聞こえない声で、寧々は嘲笑う。
麗菜を始め、皆に”ザコ”と馬鹿にされても寧々だけは紗子の味方でいてくれた。
しかし、それらは全てが偽りであったと。
余りにも淀みなくすらすらと紡がれる寧々の悪意に紗子は耳を塞ぐことも出来なかった。
「よりにもよって、あなたごときが天上界の皇太子殿下に求婚されるなんて……」
(凌雅様……)
紗子は無意識にも凌雅のほうを見られずにいた。
このようなことになり。凌雅に失望されていることは余りにも明確で、その顔を見ることが何より怖かった。
「これで殿下も目を覚まされるわ。あなたは間違いなく退学でしょうし、何より、こんな不祥事を起こした子を皇族の一員にするなんて天上界が認めるはずないもの」
余りもの絶望感に紗子の思考は完全に止まっていた。
血の気が引き、考えること事態すら放棄してしまう。
「今まで楽しませてくれてありがとう。さようなら”ザコ”さん」
寧々は耳元で紗子にだけ伝えると、紗子から離れた。
「皆さん、すーちゃんのことは責めないであげてください! 異能の才がないばかりに、きっと追い詰められて、禁札を使ってしまっただけなの!」
寧々は涙ながらに会場の真ん中で大声を上げた。
披露の儀で不正を起こした友だちを庇う優しい少女として皆の目には映っているだろう。
「寧々さんって、なんて素晴らしい子なのかしら」
「それと比較して、本当に”ザコ”って最低な子よね」
「人間性が悪すぎるわ」
まさに四面楚歌だった。
皆が紗子の敵に感じられる。
「――さあ。行こうか」
教員に腕を引かれ、紗子は立ち上がる。
その時、腹の底にまで響くような爆音が演武場を大きく揺らした。
会場の面々が一斉に顔を上げる。
「今の音って何?」
「外で何かあったのかしら」
ざわめきが広がった次の瞬間には「きゃあああ!!」女生徒の悲鳴が響き渡った。
演武場の出入り口付近で、人々が雪崩をうつように後ずさる。
次の瞬間には激しい音と共に演武場の天井の一部が破壊された。
瓦礫が演武場に落下していく。
紗子も頭を守りながら、体を伏せた。
「呪見だ!!」
演武場の出入り口と穴となった天井の二箇所から呪見が群れのように大量に入り込んできた。
どれも禍々しい気配を帯びている。
学園で管理している呪見ではない。
空から襲来する呪見には翼が生え、飛び回りながら観覧席へと向かっていく。
演武場は、あっという間に阿鼻叫喚となっていた。
「きゃあ!」
「出口へ殺到しないで! 順番に非難を」
逃げようとする者が入り乱れて、会場のあちこちで人が倒れていく。
教員が統率をとろうとするが、次々と呪見が現れ人間を襲う。
教員や一足早く冷静になれた生徒たちが祓いに転じるが、なにぶん数が多すぎて追いつかない。
紗子は恐慌状態の会場を身を竦めながら見回していた。
「――皆様、どうかご自身の身を守ることを優先してください」
上から声がしたかと思うと、一瞬の閃光とともに宙を羽ばたいていた呪見が数体一気に姿を消す。
凌雅に随行していた天上人の一人だった。
その天上人に応じるように次々と他の随行者も立ち上がる。
彼らが演武場に散開すると、呪見たちへと向かって力を放つ。
眩い光が、あちこちで演武場を駆け抜け、あれだけ大量にいた呪見たちが、あっという間に天上人の手によって消滅していく。
「……すごい……」
紗子はその光景を見つめて思わず呟いていた。
下界の人間の祓いとは全く違う。
祓札を用いることもなく、次々と呪見を消し去ってしまう。
天上人の実力は余りにも圧倒的だった。
収拾がつかなかった会場内に少しばかりの安堵が広がっていく。
会場内の呪見が天上人たちの手によって討伐された時だった。
周囲の空気がもう一段階、重く沈む。
「な、何……あれは」
天井の穴が大きな影で塞がれ、会場中の照明が落ちて暗がりに支配される。
ぎょろりと巨大な目玉が演武場を不気味に覗き込んだ。
「特等呪見だ!!」
会場が再び恐怖に突き落とされる。
特等呪見は呪見の中でも災厄級の力を持つ。
先ほどまで呪見を倒していた天上人たちの表情も変わった。
「――下がってろ」
低い声が響く。
凌雅だった。
上座から静かに立ち上がると、頭上の特等呪見へと視線を向けた。
凌雅の美貌は平静そのものだが、どこか煩わしそうであった。
「――全く、俺の意に沿わないものばかり見せてくれる」



