自分に出来ることを精一杯やろう、そう言い聞かせる。
優秀な麗菜の次という荷の重い順番で回ってくるのが紗子だ。
小休憩開けで自分の出番となる。
(いよいよだわ)
緋袴の帯に差していた自分の祓札を取り出そうとした。
「あれ?」
紗子の祓札がいつの間にか無くなっている。
紗子は目を見開いて、周囲を探すが、祓札は見当たらなかった。
控室で自分の帯に差した記憶は残っている。
(どこかで落としたの?)
一気に紗子の顔が青ざめていく。
もう少しで休憩が開ける。
紗子は席を立って演舞場を後にし、祓札を探した。
「すーちゃん。どうしたの?」
寧々が紗子へと駆け寄ってくる。
「寧々ちゃん、どうしよう」
紗子の声は震えていた。
「私の祓札がなくなってしまったの」
「え?」
寧々の顔も凍りつく。
「絶対に持ってきていたはずなのに……」
「ないって、次はすーちゃんの番でしょ?」
「うん。もう休憩が終わるよね……」
紗子は身体の震えが止まらなかった。
「ねえ、すーちゃん。私の祓札を使って」
寧々が懐から祓札を取り出して、紗子の前に掲げる。
「え、いいの?」
「うん。もちろんよ」
祓札は、祓いの力を通すための道具であり、特に個人の所有物だからといって区別はない。
「ありがとう、寧々ちゃん」
「いいのよ。すーちゃん、頑張ってね」
紗子は寧々の祓札を借りて、急いで会場の自分の席へと戻った。
「ザコさんは怖気づいて逃げ出したのかと思ったわ」
麗菜に鼻で笑われるが、紗子は気にならなかった。
(寧々ちゃんが居てくれて良かった……)
「――次、日下部紗子」
「はい」
紗子は不測の事態で乱れた心拍を落ち着けるように、胸へ手を当てながら中央へと進み出た。
「ほら、あの子が殿下に求婚された2年生の子よ」
「やっぱり麗菜さんの華やかさと比較すると見劣りするわよね」
「祓いの成績はずっと最下位だとか」
「ザコって呼ばれているらしいわよ」
様々な声が鼓膜へと入る。
紗子が視線を上げると、上座に座る凌雅の姿が見えた。
座っているだけで次期君主にふさわしい威風たる存在感が際立つ。
凌雅は真剣に紗子を見下ろしていた。
(大丈夫。落ち着いて、自分の持てる精一杯の祓いを……)
教員が封印を解き、目の前に呪見が現れる。
鋭く尖った牙を剥き出しにし、涎を垂らしながら唸る醜悪な姿に紗子は怯んだ。
心を静めて、寧々に借りた祓札を構える。
祓札へと指先から力を送り込んで。
「……っ!」
激しい光が札から溢れ出し、瞬く間に呪見を包み込んで跡形もなく消し去った。
呪見は叫びをあげる間もなかった。
「……え?」
紗子は呆然と立ち尽くしていた。
いつもの祓いとは全然違った強い力。
会場内は異様な静けさに包まれている。
何が起こったのかわからなかったのは紗子だけじゃなかったようだ。
「待ちなさい!」
審判をしていた教員2名が険しい形相で紗子へと駆け寄ってくる。
「その祓札を見せなさい」
「……え?」
「早く!」
ただならぬ教員の剣幕に紗子は畏縮する。
不穏な事態に、やがて会場中がざわめきだした。
「これは禁札じゃないか」
「禁札……?」
「どこで手に入れたんだ」
「不正じゃないか」
教員たちが口々に紗子を責め立てる。
紗子はすぐに言葉が出てこなかった。
(禁札……)
その名の通り強い祓いの効力が期待できるものの、余りにも取り扱いが危険なため使用を禁止されている祓札だ。
(だって、これは寧々ちゃんから借りたもので……)
紗子は周囲を見回した。
会場中から軽蔑の眼差しを向けられていて、背筋が震える。
「え? あの子、禁札を使ったの?」
「どおりでザコにしては強い祓いだと思ったわ」
「不正を働いてまで、殿下に取り入りたいのかしら」
「最低ね」
――違う……。
そう言葉に出来たら、どれだけ良かっただろう。
喉が干上がったように声が出てこない。
「日下部紗子。あなたには詳しい事情を確認する必要があります」
「いったん、この場から離れなさい」
教員たちが紗子を連れ出すために声掛けしてくる。
その時、寧々が中央へと歩み寄ってきた。
「すーちゃん!」
紗子は寧々の姿に安堵した。
(寧々ちゃんが札の件を説明してくれたら、みんなわかってくれる)
ところが寧々からは予想外の言葉が飛び出した。
「いくら自分に祓いの才能がないからって、禁札を使うなんて、すーちゃんを見損なったわ」
寧々は涙を流しながら、紗子を非難した。
「寧々……ちゃん」
「私はすーちゃんのこと大切なお友達だと思っていたのに。いくら殿下の前で良いところを見せたいからってやっていいことと悪いことがあるわよ」
困惑する紗子に対して、寧々は悲しい顔を作り、涙ながらに訴えてくる。
「何を言ってるの? 寧々ちゃんが、あの祓札を貸してくれたんでしょ?」
「……何のこと?」
「不正を働いただけじゃなくて、お友達のせいにするつもりなのかしら」
麗菜が立ち上がって、寧々に追随する。
もはや会場中が寧々に同調していた。
「人に責任を押しつけるなんて、本当に浅ましいわ」
「退学は確実でしょ」
「能力だけじゃなくて性格までザコなのね」
優秀な麗菜の次という荷の重い順番で回ってくるのが紗子だ。
小休憩開けで自分の出番となる。
(いよいよだわ)
緋袴の帯に差していた自分の祓札を取り出そうとした。
「あれ?」
紗子の祓札がいつの間にか無くなっている。
紗子は目を見開いて、周囲を探すが、祓札は見当たらなかった。
控室で自分の帯に差した記憶は残っている。
(どこかで落としたの?)
一気に紗子の顔が青ざめていく。
もう少しで休憩が開ける。
紗子は席を立って演舞場を後にし、祓札を探した。
「すーちゃん。どうしたの?」
寧々が紗子へと駆け寄ってくる。
「寧々ちゃん、どうしよう」
紗子の声は震えていた。
「私の祓札がなくなってしまったの」
「え?」
寧々の顔も凍りつく。
「絶対に持ってきていたはずなのに……」
「ないって、次はすーちゃんの番でしょ?」
「うん。もう休憩が終わるよね……」
紗子は身体の震えが止まらなかった。
「ねえ、すーちゃん。私の祓札を使って」
寧々が懐から祓札を取り出して、紗子の前に掲げる。
「え、いいの?」
「うん。もちろんよ」
祓札は、祓いの力を通すための道具であり、特に個人の所有物だからといって区別はない。
「ありがとう、寧々ちゃん」
「いいのよ。すーちゃん、頑張ってね」
紗子は寧々の祓札を借りて、急いで会場の自分の席へと戻った。
「ザコさんは怖気づいて逃げ出したのかと思ったわ」
麗菜に鼻で笑われるが、紗子は気にならなかった。
(寧々ちゃんが居てくれて良かった……)
「――次、日下部紗子」
「はい」
紗子は不測の事態で乱れた心拍を落ち着けるように、胸へ手を当てながら中央へと進み出た。
「ほら、あの子が殿下に求婚された2年生の子よ」
「やっぱり麗菜さんの華やかさと比較すると見劣りするわよね」
「祓いの成績はずっと最下位だとか」
「ザコって呼ばれているらしいわよ」
様々な声が鼓膜へと入る。
紗子が視線を上げると、上座に座る凌雅の姿が見えた。
座っているだけで次期君主にふさわしい威風たる存在感が際立つ。
凌雅は真剣に紗子を見下ろしていた。
(大丈夫。落ち着いて、自分の持てる精一杯の祓いを……)
教員が封印を解き、目の前に呪見が現れる。
鋭く尖った牙を剥き出しにし、涎を垂らしながら唸る醜悪な姿に紗子は怯んだ。
心を静めて、寧々に借りた祓札を構える。
祓札へと指先から力を送り込んで。
「……っ!」
激しい光が札から溢れ出し、瞬く間に呪見を包み込んで跡形もなく消し去った。
呪見は叫びをあげる間もなかった。
「……え?」
紗子は呆然と立ち尽くしていた。
いつもの祓いとは全然違った強い力。
会場内は異様な静けさに包まれている。
何が起こったのかわからなかったのは紗子だけじゃなかったようだ。
「待ちなさい!」
審判をしていた教員2名が険しい形相で紗子へと駆け寄ってくる。
「その祓札を見せなさい」
「……え?」
「早く!」
ただならぬ教員の剣幕に紗子は畏縮する。
不穏な事態に、やがて会場中がざわめきだした。
「これは禁札じゃないか」
「禁札……?」
「どこで手に入れたんだ」
「不正じゃないか」
教員たちが口々に紗子を責め立てる。
紗子はすぐに言葉が出てこなかった。
(禁札……)
その名の通り強い祓いの効力が期待できるものの、余りにも取り扱いが危険なため使用を禁止されている祓札だ。
(だって、これは寧々ちゃんから借りたもので……)
紗子は周囲を見回した。
会場中から軽蔑の眼差しを向けられていて、背筋が震える。
「え? あの子、禁札を使ったの?」
「どおりでザコにしては強い祓いだと思ったわ」
「不正を働いてまで、殿下に取り入りたいのかしら」
「最低ね」
――違う……。
そう言葉に出来たら、どれだけ良かっただろう。
喉が干上がったように声が出てこない。
「日下部紗子。あなたには詳しい事情を確認する必要があります」
「いったん、この場から離れなさい」
教員たちが紗子を連れ出すために声掛けしてくる。
その時、寧々が中央へと歩み寄ってきた。
「すーちゃん!」
紗子は寧々の姿に安堵した。
(寧々ちゃんが札の件を説明してくれたら、みんなわかってくれる)
ところが寧々からは予想外の言葉が飛び出した。
「いくら自分に祓いの才能がないからって、禁札を使うなんて、すーちゃんを見損なったわ」
寧々は涙を流しながら、紗子を非難した。
「寧々……ちゃん」
「私はすーちゃんのこと大切なお友達だと思っていたのに。いくら殿下の前で良いところを見せたいからってやっていいことと悪いことがあるわよ」
困惑する紗子に対して、寧々は悲しい顔を作り、涙ながらに訴えてくる。
「何を言ってるの? 寧々ちゃんが、あの祓札を貸してくれたんでしょ?」
「……何のこと?」
「不正を働いただけじゃなくて、お友達のせいにするつもりなのかしら」
麗菜が立ち上がって、寧々に追随する。
もはや会場中が寧々に同調していた。
「人に責任を押しつけるなんて、本当に浅ましいわ」
「退学は確実でしょ」
「能力だけじゃなくて性格までザコなのね」



