***
数日の時が経過し、披露の儀の当日を迎えた。
天華女学院は、いつもよりも更に華やかな空気に包まれている。
校舎の廊下には色鮮やかな花が飾られ、行き交う生徒たちの表情もどこか浮き足立っていた。
今回は特に天上界の皇太子殿下――凌雅が台覧する。
その知らせが正式に入って以来、学園中がこの日を心待ちにしていた。
紗子は凌雅本人から顔を合わせた時に、直接それを聞いていた。
『紗子が出るのか? 楽しみにしている』
凌雅から激励を受け、紗子の緊張は更に増していた。
披露の儀に参加する生徒は控室に集められている。
皆が白い千早を羽織った巫女姿に着替えていた。
化粧も施し、普段とは違う自分の姿に紗子は少々気恥ずかしかった。
(精一杯、私なりに頑張ろう……)
練習の数を重ねたとしても、祓いの才が急に伸びることはない。
それでも後悔が残らないよう紗子はこの日のために一生懸命準備してきた。
「まあ、ザコさん。せっかくの晴れ舞台なのに、そんなに自信がなさそうにしていたら、凌雅殿下に笑われてしまうわよ」
麗菜が紗子へ声をかけてきた。
今日の麗菜はいつにも増して華やかで美しい。
高い実力の裏付けか全く緊張などしていないようだ。
「ご心配いただいてありがとうございます」
「この私があなたの心配なんてするわけがないでしょう。ザコさんみたいな無能が参加することで披露の儀の格が下がらないか気になっているだけよ」
麗菜につられ、周囲の女生徒たちが、小さく笑い声を漏らす。
天華の生徒であるならば、皆が麗菜の抜きんでた祓いの実力を知っている。
「麗菜さん。本番前にすーちゃんを追い詰めないようにしてね」
「寧々ちゃん」
寧々が控室へと入ってくる。
「本当にあなたは、ザコさんの肩ばかりもつのね」
「だって、すーちゃんは私の大切なお友達ですもの」
寧々は麗菜に微笑むと、紗子の前に立つ。
「激励にきたわ。すーちゃん、とっても綺麗」
「ありがとう、寧々ちゃん」
寧々は今回の披露の儀には参加しない。
それでも紗子を励ましに来てくれた気持ちが嬉しかった。
やがて会場のほうから大きな歓声が聞こえてきた。
「殿下が会場にお見えになったそうよ」
「早くお姿を拝見したいわ」
控室の参加者たちも落ち着かない様子で高揚感に顔を見合わせている。
紗子も、どきりと胸が跳ね上がった。
(凌雅様がいらっしゃった……)
「それでは、参加者の皆さんは整列してください」
教員の声に生徒たちが一斉に動き始める。
(いよいよだわ……)
紗子は衣装に忍ばせておいた勿忘草のブローチに、そっと触れる。
緊張は消えないものの、お守りのように力が湧いてきた。
「すーちゃん、深呼吸だよ。頑張ってね」
「うん」
寧々に背中を押され、紗子も参加者の列へと並びに向かった。
***
披露の儀が執り行われるのは、女学院の広大な演武場だった。
高い天井を持つ場内の中央には、四角く区切られた祓いの場が設けられている。
周辺には呪見を封じるための結界が張られ、参加する生徒たちは、一人ずつその内側で祓いの技を披露することになっていた。
祓いの場を囲むように観覧席が並び、正面の一段高い場所には来賓のための上座が用意されている。
そこに鎮座しているのが凌雅だった。
天上界からの随行者を従え、学園長にもてなされるように話しかけられながらも悠然と場を見下ろす姿は、会場中の視線を集めていた。
紗子は祓いの場の脇に設けられた参加者の控え席から、凌雅の姿をそっと見上げる。
ふと、凌雅と目が合う。
凌雅が紗子へと口許に弧を描く。
(凌雅様が見ていらっしゃる……)
紗子の頬は瞬時に熱くなり、慌てて瞼を伏せた。
披露の儀は開会宣言から始まり、学園長の挨拶など形式的に式次第に沿って進行し、生徒の披露へと映っていた。
一学年の生徒から順に中央へと進み出る。
披露の儀では本物の呪見が遣われる。
普段は学園側が封印し管理している呪見であった。
実際に呪見と対峙し、祓わなければならない緊張感を伴うもの。
一人、2人、3人と、選抜されている生徒たちは日頃の修練の成果を披露し、呪見を祓っていった。
そうして2学年の番となる。
「――次、月影麗菜」
教員に名を呼ばれ、麗菜が優雅に立ち上がった。
中央の披露の場へと進み出る。
その姿は自信に満ち溢れていた。
麗菜は祓札を2つの指で挟み、胸の辺りへ掲げる。
係の者が呪見の封印を解き放つ。
麗菜が静かに目を閉じると、札から眩いほどの光が放たれる。
「すごいわ……」
「さすが麗菜さん」
今までにないほど強力で鮮やかな光に会場中から感嘆の吐息が漏れ出す。
勢いよく広がった光は呪見を瞬く間に包み込み、跡形もなく消え去った。
会場が大きくどよめく。
「素晴らしいわ」
「何て見事な祓いなの」
「美しかったわ」
今日一番の大きな拍手が麗菜を包み込む。
紗子も素直に拍手を送る。
強く、美しい麗菜の祓いの力。
(凌雅様も見ていたわよね……)
凌雅が麗菜の見事な祓いを見て心惹かれてしまうのではないかと、そんな余計な感情が生まれてしまう。
(弱気になってはだめ……)
数日の時が経過し、披露の儀の当日を迎えた。
天華女学院は、いつもよりも更に華やかな空気に包まれている。
校舎の廊下には色鮮やかな花が飾られ、行き交う生徒たちの表情もどこか浮き足立っていた。
今回は特に天上界の皇太子殿下――凌雅が台覧する。
その知らせが正式に入って以来、学園中がこの日を心待ちにしていた。
紗子は凌雅本人から顔を合わせた時に、直接それを聞いていた。
『紗子が出るのか? 楽しみにしている』
凌雅から激励を受け、紗子の緊張は更に増していた。
披露の儀に参加する生徒は控室に集められている。
皆が白い千早を羽織った巫女姿に着替えていた。
化粧も施し、普段とは違う自分の姿に紗子は少々気恥ずかしかった。
(精一杯、私なりに頑張ろう……)
練習の数を重ねたとしても、祓いの才が急に伸びることはない。
それでも後悔が残らないよう紗子はこの日のために一生懸命準備してきた。
「まあ、ザコさん。せっかくの晴れ舞台なのに、そんなに自信がなさそうにしていたら、凌雅殿下に笑われてしまうわよ」
麗菜が紗子へ声をかけてきた。
今日の麗菜はいつにも増して華やかで美しい。
高い実力の裏付けか全く緊張などしていないようだ。
「ご心配いただいてありがとうございます」
「この私があなたの心配なんてするわけがないでしょう。ザコさんみたいな無能が参加することで披露の儀の格が下がらないか気になっているだけよ」
麗菜につられ、周囲の女生徒たちが、小さく笑い声を漏らす。
天華の生徒であるならば、皆が麗菜の抜きんでた祓いの実力を知っている。
「麗菜さん。本番前にすーちゃんを追い詰めないようにしてね」
「寧々ちゃん」
寧々が控室へと入ってくる。
「本当にあなたは、ザコさんの肩ばかりもつのね」
「だって、すーちゃんは私の大切なお友達ですもの」
寧々は麗菜に微笑むと、紗子の前に立つ。
「激励にきたわ。すーちゃん、とっても綺麗」
「ありがとう、寧々ちゃん」
寧々は今回の披露の儀には参加しない。
それでも紗子を励ましに来てくれた気持ちが嬉しかった。
やがて会場のほうから大きな歓声が聞こえてきた。
「殿下が会場にお見えになったそうよ」
「早くお姿を拝見したいわ」
控室の参加者たちも落ち着かない様子で高揚感に顔を見合わせている。
紗子も、どきりと胸が跳ね上がった。
(凌雅様がいらっしゃった……)
「それでは、参加者の皆さんは整列してください」
教員の声に生徒たちが一斉に動き始める。
(いよいよだわ……)
紗子は衣装に忍ばせておいた勿忘草のブローチに、そっと触れる。
緊張は消えないものの、お守りのように力が湧いてきた。
「すーちゃん、深呼吸だよ。頑張ってね」
「うん」
寧々に背中を押され、紗子も参加者の列へと並びに向かった。
***
披露の儀が執り行われるのは、女学院の広大な演武場だった。
高い天井を持つ場内の中央には、四角く区切られた祓いの場が設けられている。
周辺には呪見を封じるための結界が張られ、参加する生徒たちは、一人ずつその内側で祓いの技を披露することになっていた。
祓いの場を囲むように観覧席が並び、正面の一段高い場所には来賓のための上座が用意されている。
そこに鎮座しているのが凌雅だった。
天上界からの随行者を従え、学園長にもてなされるように話しかけられながらも悠然と場を見下ろす姿は、会場中の視線を集めていた。
紗子は祓いの場の脇に設けられた参加者の控え席から、凌雅の姿をそっと見上げる。
ふと、凌雅と目が合う。
凌雅が紗子へと口許に弧を描く。
(凌雅様が見ていらっしゃる……)
紗子の頬は瞬時に熱くなり、慌てて瞼を伏せた。
披露の儀は開会宣言から始まり、学園長の挨拶など形式的に式次第に沿って進行し、生徒の披露へと映っていた。
一学年の生徒から順に中央へと進み出る。
披露の儀では本物の呪見が遣われる。
普段は学園側が封印し管理している呪見であった。
実際に呪見と対峙し、祓わなければならない緊張感を伴うもの。
一人、2人、3人と、選抜されている生徒たちは日頃の修練の成果を披露し、呪見を祓っていった。
そうして2学年の番となる。
「――次、月影麗菜」
教員に名を呼ばれ、麗菜が優雅に立ち上がった。
中央の披露の場へと進み出る。
その姿は自信に満ち溢れていた。
麗菜は祓札を2つの指で挟み、胸の辺りへ掲げる。
係の者が呪見の封印を解き放つ。
麗菜が静かに目を閉じると、札から眩いほどの光が放たれる。
「すごいわ……」
「さすが麗菜さん」
今までにないほど強力で鮮やかな光に会場中から感嘆の吐息が漏れ出す。
勢いよく広がった光は呪見を瞬く間に包み込み、跡形もなく消え去った。
会場が大きくどよめく。
「素晴らしいわ」
「何て見事な祓いなの」
「美しかったわ」
今日一番の大きな拍手が麗菜を包み込む。
紗子も素直に拍手を送る。
強く、美しい麗菜の祓いの力。
(凌雅様も見ていたわよね……)
凌雅が麗菜の見事な祓いを見て心惹かれてしまうのではないかと、そんな余計な感情が生まれてしまう。
(弱気になってはだめ……)



