鈴蘭後宮譚

 花祭りと後宮の神事は、予定通り行われた。
 深夜の悪夢のような出来事を知る者はほとんどいない。
 限界到達(カウンターストップ)から一転、生まれたての赤子並みの数値になってしまった蓮華だったが、その所作はかえって可憐さが引き立つ結果となり見事な舞だったと絶賛された。
 故郷の村へは、小菊と悠悠が過去に立派に神事の巫女役を務めたことと、残念ながらすでに他界していることをしたためて送った。
 徐尚儀が行方知れずとなり、徐氏に関連する牡丹宮や首都の屋敷の花だけが枯れるという凶兆により、徐氏は急速に力を失っていく。
 そして蓮華もまた、不思議な能力を失った。
 頭上の数字が見えなくなったのだ。
 最後に確認した時には、毎日の鍛錬の甲斐あって二百まで回復していた。
「また限界到達を目指すわ!」
 鈴蘭宮の中庭で日課の鍛錬をこなす蓮華のもとへ、蒼月が訪ねてきた。
「精が出るな」
 その左手首には相変わらず白蛇の腕輪がある。
「はい! 神気を白蛇様に捧げなければなりませんから」
「牡丹宮へ移る気にはなったか?」
 蒼月はあの事件後、後宮を一新した。
 徐氏の息のかかる者とそれに与していた者を全員排除したのだ。
 その中には第一妃であった祥明も含まれている。
 代わりに蓮華が第一妃に昇格し、牡丹宮への引っ越しを迫られているのだが……。
「もう少し、鈴蘭宮にいさせてください」
 晴れやかに笑う蓮華の髪で鈴蘭の歩揺がシャラリと揺れる。
 蒼月は愛おしそうに目を細めて蓮華を抱きしめた。
 
 完