鈴蘭後宮譚

 柔らかい日差しが炎煌国(えんこうこく)の宮城(きゅうじょう)を明るく照らす。
 うららかな陽気に誘われ色とりどりのつぼみが一斉に開く春。
 首都韶華京(しょうかきょう)は、『美しい花の都』という名にふさわしく、そこかしこに花が溢れていた。
 花海棠(はなかいどう)は垂れた枝に薄紅色の花をつけ、その根元では大輪の牡丹が甘い香りを漂わせている。
 建国神話によれば、大きな白蛇がこの国に豊饒と平和をもたらし、いまでも守りつづけているのだという。花が咲き誇るこの光景は、まさに白蛇に守られている象徴といえる。
 花弁が風に舞う石畳の目抜き通りをゆっくり進む牛車が一台。
 牛車の物見窓の簾が上がると、美しいかんばせの少女が黒目がちの大きな目を輝かせた。
「素敵……!」
 十八歳になる柳蓮華(リュウレンカ)は、今日から後宮仕えの身になる。
 そのために生まれ育った山間の集落から遠路はるばるやってきたのだ。
「蒼月様、あなたをお守りいたします」
 蓮華は感慨深げにつぶやいて簾を下ろす。
 真っすぐ後宮へ向かう牛車を歓迎するように、花吹雪が舞っていた。