○女学校(数日後、日中)
教室内で友人たちとお弁当を食べている桜子。
柚葉「へぇ、そっか。妹さんと会えたんだね。よかったね、桜子」
桜子「うん。たまたま妹も職を変えたばかりで、すれ違いになっていただけみたい」
友人1「妹さんはどんな仕事をされているの?」
桜子「ええと……今はどうなのかしら。聞きそびれたわ」
友人2「そっか。彼女もいい殿方に見初められたらいいね」
桜子「ええ」
柚葉「桜子は……お兄様とはいい感じ?」
桜子「え!」
柚葉「ふふ。だって最近、すっごく幸せそうだから」
桜子「……うん」
桜子、気恥ずかしそうに俯きながらも、頷く。
桜子「今朝もね、私が作った朝餉をおいしいって言って食べてくれて。私、本当にいい殿方と結婚できてよかった」
柚葉、ちょっとびっくりとした顔をしている。
柚葉「桜子、控えめすぎるよー! お兄様の方こそ、桜子みたいな健気で優しい子と結婚できてよかったわよ」
友人1「桜子ってどうしてそう慎ましやかなのかしら」
友人2「あはは。私たちも見習わないと」
桜子「そ、そんなことないって」
友人1「そういえばね、私、放課後に茶道を--」
○帝都の往来(日中)
昼、外食をしに街中を歩いている桐仁と孝次。
孝次「珍しい妖魔もいるものですね。ポン助、ですか」
桐仁「そうだな。軍の規律も……絶対的に正しいとは限らないとつくづく感じた」
孝次「しかし減給処分ですか。世知辛いものですねぇ」
桐仁「大した収入減ではない。まぁ、数ヶ月の辛抱だ」
二人が近くの定食屋に入ると、真向かいから梓がやってきた。
梓「あ! お姉ちゃんの旦那さん!?」
桐仁「ん? 君は……」
梓「妹の梓です。奇遇ですね、こんなところで会うなんて」
桐仁「ここで働いているのか?」
梓「はい」
孝次「空森少尉。奥方の妹君なんですか、この美しい方」
ひそひそと話しかけられ、桐仁は頷く。
桐仁「ああ」
梓「やだっ、私なんて全然ですよ」
わざとらしいくらい笑顔を振りまく梓。(自分でも美人だと思っている)
梓「それにしても、少尉の地位におられるなんてすごーい! ささっ、こちらへどうぞ」
桐仁「あ、ああ」
梓「私、これからちょっと休憩なんです。お話しましょう」
定食屋の席に孝次と座ると、隣に梓が座ってきた。
桐仁、少し眉をひそめるが……桜子の妹だと思うと強く拒めない。
梓「お姉ちゃんとはどちらで知り合ったんですか?」
桐仁「俺が見初めた」
孝次「元々は家名目当てだったんですよねー」
桐仁「おい。やめろ」
梓、ちょっと目が輝く。(横取りする気満々)
梓「空森さん、とお呼びしてもいいですか?」
桐仁「構わないが」
梓「空森さんは……愛人には興味ありません?」
桐仁「は?」
梓、にこりと笑いながら、桐仁の手に自分の手を重ねようとする。が、桐仁は拒んで手を引っ込める。
桐仁「……あいにく、君は好みではない。孝次、違う店に移動するぞ」
桐仁、席を立つ。孝次も慌ててついていく。
断られた梓は顔を真っ赤にして、扉を睨みつけていた。
○桐仁邸(夜)
居間で洗濯物を畳んでいる桜子。仏頂面の桐仁が帰ってくる。
桐仁「ただいま」
桜子「おかえりなさい」
桜子が破顔すると、桐仁も微笑む。
桐仁「今日は一日どうだった?」
桜子「楽しかったです。桐仁さんは?」
桐仁「俺はいつも通りだ。ああ、それと……妹君にもたまたま会った」
桜子「梓と? どちらで?」
桐仁「比内通りの定食屋だ。そちらで働いているようだった」
桜子「そうなんですね! 私も会いに行こうかしら」
無邪気に笑う桜子を見た桐仁、言葉に詰まる。昼の一件を伝えるのははばかられて、口をつぐむ。
桐仁「そう、か。まぁ、姉妹仲がいいのはいいことだ」
桜子「ふふ。ありがとうございます」
桐仁「ところで、桜子。俺は明日、当直だから。夜は帰らない」
桜子「え! ……わ、分かりました」
しょんぼりとする桜子のことを、桐仁は背後から抱きしめる。
桐仁「寂しいか?」
桜子「はい」
桐仁「素直だな、桜子は。……俺も寂しく思うよ。すまない」
桜子「お仕事なのですから、仕方ありません」
桜子、体の向きを変えて桐仁のことを抱きしめ返す。
二人は抱き合いながら、キス。
桜子「……ふふ」
桐仁「どうした?」
桜子「すっごく幸せだなって。桐仁さんと出会えて本当によかった」
桐仁「俺もだ」
微笑み合う二人。
桜子(この時は……私は知らなかった。まさか、あんなことになるなんて--)
