天命のセナ


 麗かな昼過ぎ。
 木々の隙間から差し込む光が、歩みを進めるセナとルソンの姿を照らしていた。

 時折、心地良い風が吹き、2人の髪を揺らす。
 鳥のさえずりとセナとルソン、二人の足音がリズム良くその場に響いていた。

 セナは先に前を歩いている己の護衛であり、幼なじみであるルソンの背を見つめながら、これまでの出来事を振り返る。

 春祭りの夜。
 幼馴染のシウォンから父上(ルク王)が叔父であるソレザの手によって殺されたことを伝えられた。

「城を出てから大分、経つけれど、天気が良い日が続いているわね」

 私とルソンは城を出てから3日目の夜に最初の行き先を決めた。
 今、向かっているのは、ルソンの故郷でもあるフィルラ村だ。
 天候に恵まれているお陰もあって、城を出てから一度も雨が降ることなく、晴れの日が続いている。

「そうですね。まあ、そのおかげで外で野宿出来てる訳ですけど」
「そうね。天気が良かったおかげで色々、困ることもなくて本当に良かったわ」
「ですね。あー、そういえば、姫さまと一緒に故郷に行くのは何だかんだいって初めてですね」
「確かに。言われてみればそうね」

 セナは前からルソンの故郷であるフィルラ村に行ってみたいと思っていたが、ルソンには一度もその気持ちを伝えたことがなかった。

 毎年、冬になると故郷へ帰省していたルソン。
そんなルソンから故郷であるフィルラ村の話しを聞くのは、年の始めであるルソンが故郷から帰ってきた時だけだった。

「楽しみだわ」

 そう言ったセナを横目に見ながら、ルソンは城を出た頃より元気を取り戻している彼女を見て安堵した。

✾✾✾
 
 その日の夜。
 セナとルソンは城を出てからの夜と同じように外で野宿をする為、火を起こし他愛のない会話をし始める。

「今日は、いつもより涼しいわね」
「そうですね。あの、姫さま。この先、何があっても命をかけて俺が貴方を守ります」

 ルソンの唐突すぎるその言葉にセナは少し驚くが、ふと表情を和らげ、ルソンに対して告げた。

「ありがとう、ルソン。貴方が側にいてくれるだけでとても心強いわ」
「はい、それにしても綺麗な夜空ですねぇ」

 ルソンはそう言って、星が無数に瞬く夜空を見上げる。セナもルソンと同じように夜の空を見上げて「ええ、そうね」と呟いた。


 翌日。
 夜が明けた朝の心地良い空気をルソンとセナは肌で感じながら朝食を済ませ、出発の準備をし始める。
 そして、お互い出発の準備が出来たことを確認し合いルソンはセナに言葉を投げかけた。

「じゃあ、そろそろ行きますか」
「ええ、」

 ルソンにそう言われ、セナは強く頷き返してから、先に歩き始めたルソンの背中を追うようにセナも歩みを進め始めた。

 何処までも続いているように感じられる森の中を歩きながら、セナはルソンの背に向かって話しかける。

「ねえ、ルソン。私、いつか城に帰るわ。いつまでもシウォンに任せぱなっしではいられないもの」
「まあ、そうですよね」

 先に前を歩くルソンがどんな表情をしているのか、セナにはわからなかったが、いつもと変わらないルソンの声がセナにはいつもより優しく聞こえた気がした。

 その後もセナとルソンは他愛のない会話をしながら、時折、休憩を取り。
 目的の場所であるフィルラ村へと辿り着く為、歩き続けた。

「姫さま。ちょっと止まって下さい。俺達、以外に誰かいます」

 ルソンの険しい顔つきと警戒心を交えた声にセナもルソンと同じく足を止める。

「ええ、そうみたいね。人の足音が近くに聞こえたわ」

 自分達以外の人間が他にいる。
 セナとルソンは徐々に足音が近付いて来る方向に視線を向けた。

「そこにいるんだろ? 隠れていないで出てきたらどうだ?」

 ルソンの通った声が心地良く吹いた風によって木々が揺れる音と混ざり合い、その場に響き渡る。

「声をかけようとしたんだが、タイミングを失ってな。つけている感じになってしまった。すまない」
「いや、それは大丈夫だが、声をかけようとしていたって?」
「ああ、普段、この森であまり人を見掛けないから、少し気になってな」

 男はこの森をいつも通るらしく、普段は人気がないのに、今日に限って自分以外にも人がいることに気付き気になってつけてきたらしい。

「なるほど……」
「ああ。ん? そちらのお嬢さんは、連れかい?」

 男はルソンの斜め後ろに立っているセナに気付き目を向ける。

「ああ、そうだが」

 セナは一歩前に出てルソンの右隣に立ち、男の顔を見て挨拶する。

「どうも、こんにちは」

 セナの軽めの挨拶に男の顔は何故か驚きへと変わっていく。
 そんな男の表情の変化にルソンとセナは何に対して驚いたのだろう?と少しばかり気になったが、男の次の言葉にセナとルソンは困惑することになる。

「その髪、その瞳、まさかセナ姫!?」

 自分の正体がバレてしまったことに、焦りよりも諦めが先にきたセナは素直に認めて頷いた。

「ええ、そうよ」
「あー、やっぱり髪と瞳だけで、姫さまだって、バレちゃいますよね……」

 珍しい空色の髪と瞳をしているセナは自分の正体が他者にわからぬよう、人目がつく場所では、普段から羽織っている白いマントに付いている白いフードを頭に被っているのだが、今はルソンと二人という状況だった為、被らなくても大丈夫だろうと油断していた。

 バレてしまったことは、もう仕方ないで済ませることにしたが、まだ、一応、警戒を保ったままにしとこうとセナとルソンは互いに思っていた。
 そして何かあった時のことも視野に入れ、すぐ行動出来るように身構える。

「しかし、何故、こんな所にセナ姫様がおられるのですか?」

 誰しも疑問に思うであろうことを男は聞いてくる。 セナは何と返答するべきか、ほんの一瞬考えたが、すぐには思いつかなかった。
 そんなセナの代わりに左隣に立っていたルソンが答える。

「あんまり、詳しくは言えないが、訳ありってことだ」
「なるほど。そうなんですね」
「あの、どうか私達が此処を通ったことを言わないでいただきたいです……」

 セナがそう言えば、目の前にいる男は「安心してください。誰にも言いませんよ」と穏やかな声で返した。

「ありがとうございます」
「はい、では、私は失礼させていただきますね。呼び止めてしまい申し訳ありません」

 ヴォラスはそう言い残し、ルソンとセナに背を向けてその場から立ち去って行った。
 セナとルソンはそんなヴォラスの後ろ姿を見送ってからまた歩き始めた。