天命のセナ


 再び旅へ出てから、一年。
 季節をいくつも越え、風の匂いも景色も変わった春頃、セナ達は天蘭王国の王城へと戻ってきた。

 門が開く。
 懐かしい石畳。高くそびえる王城。
 そして、階段の上で待っていたのはシウォンだった。

「おかえりなさい」

 王の衣をまといながらも、その微笑みは変わらない。

「ただいま」

 セナは胸を張って答える。
 そんなセナの隣には、変わらずルソンが立っていた。

 視線が交わる。だが多くは語らなかった。



 その夜。
 王の私室にて、三人は再び顔を合わせた。

「今月、あなたの戴冠式を行います」

 シウォンが静かに告げる。

「準備は整っています。一年前の約束どおり、王位はあなたに」

 セナは一瞬だけ目を閉じ、それから頷いた。

「……ええ」

✾✾✾

 戴冠式前夜。
 城の回廊は静まり返り、月光(げっこう)が白い床を照らしている。
 中庭に面したバルコニーで、セナは一人立っていた。

「こんなところにいたのか」

 背後から、聞き慣れた声なセナの耳に届く。
 振り返ると、ルソンが立っていた。

「少しだけ、風に当たりたくて」

 沈黙が落ちる。
 だが、それは居心地の悪いものではなかった。

「……ルソン」

 セナが、ゆっくりと口を開く。

「わたし、あなたのことが好きよ。旅をしていくなかで、あなたはかけがえのない存在になっていた」

 手すりを握る指が、わずかに震える。

「王になる前に、この想いだけは伝えたかったの」

 ルソンはしばらく何も言わなかった。
 そして、静かにセナの隣に歩み寄る。

「……俺も」

 月明かりの中で、ルソンの表情が柔らかくなる。

「あなたのことを、一人の女性として好きです」

 その言葉に、セナの瞳が揺れた。
 嬉しさと安堵が混じり、思わず笑みがこぼれる。

「私、あなたをそのうち将軍にするわ」
「……は?」
「そしたら、あなたと結婚できるもの」

 あまりに真剣な顔で言うから、ルソンは吹き出した。

「はは、姫さまならやりかねなさそうだ」

 苦笑しながらも、その目は優しい。

「姫さま」

 そっと、ルソンはセナの頬に触れる。

「俺の心は、いつもあなたのそばにあります」

 そして。
 そっと、口づけた。
 淡く、優しく。
 ゆっくりとルソンの熱が離れる。
 セナは頬を赤く染めながらも、嬉しそうに笑う。

「わたしもよ」

 そっと胸に手を当てる。

「私の心は、いつもあなたにあるわ」

 月が、そんな二人を照らしていた。
 これから先、何があったとしても彼(ルソン)は私の側にいてくれる。それが何よりも心強く感じた。

✾✾✾

 翌朝。
 王城は祝賀(しゅくが)の装いに包まれている。 そんな中、待機部屋の扉がノックされた。

「セナ」

 入ってきたのは、シウォンだった。

「そろそろ、戴冠式が始まります」

 穏やかな声。
 セナは深く息を吸う。
 そして、頷いた。

「ええ」

 隣に立つのは、専属護衛であるルソン。
 幼なじみ三人の視線が交わる。無言の誓い。

 扉がゆっくりと開かれた。
 長い回廊の先に、玉座の間が見える。
 王女は、王となるために歩き出す。
 新たな時代が、今まさに幕を開けようとしていた。