「あれ?」短編小説集

「押してください」

と書いてある
赤くて丸いボタン

何のためのボタンなのか
さっぱり分からない

そんなボタンが付いた

床のタイル

時々立ち止まる人

だけどすぐに道を急ぐ

道行く人はみな
跨いで通り過ぎる

押しボタン信号を押して
渡ってくる人たち

床のタイルのボタンは
跨いで通り過ぎる

道行く子供が指をさす
母親が子供の手を引く

床のタイルのボタンを
跨いで通り過ぎる

雨が降る

床のタイルのボタンは
びしょびしょ

だけどみんな
跨いで通り過ぎる

…

長い時間を
跨がれてきた

床のタイルのボタン

白く変色したかつての赤

みんなが跨いで通り過ぎる

床のタイルのボタン

朽ちてボタンだったのかさえわからない

ボタンは長い時間を跨がれていく