後宮の【女千人】と呼ばないで!  〜最強の武装女官は、再会した幼馴染の近衛少将に溺愛される〜

 落ち着きを取り戻したころ、織葉(おりは)のところへ颯登(はやと)が現れた。
「肝(きも)を冷やしたぞ。大丈夫なのか?」
「飛んでくるとしたら私の方だとわかっていたからね。予測していたから造作もないことだったわ」
「あの藤壺(ふじつぼ)の香(こう)が引き寄せたのか?」
「弓削燈子(ゆげとうこ)の話だと、呪術を施した花や飾りなどをめがけて飛んでくるということだった。前回は桐壺(きりつぼ)の香(こう)を染み込ませた組み紐。実は、物ではなく匂いそのものに術をかけたかもしれないと思ったの。ならば香袋そのものが危ない。だから御方の香よりも強い香を纏えば矢は私の方へ飛んでくると思った」
「それであんなに臭くなるまで香を使ったのか」
「臭いは余計よ!」
 織葉の張り手を颯登は躱(かわ)さなかった。甘んじてその手を受け入れる。そして織葉の手を握りしめる。
「あまり心配させるな」
「は?」
「汗ばんでいるではないか」
 颯登(はやと)に言われ、自分の手に緊張の汗が滲んでいたことを織葉は初めて悟った。
 織葉は颯登の手を振りほどくのに難儀することになった。