後宮の【女千人】と呼ばないで!  〜最強の武装女官は、再会した幼馴染の近衛少将に溺愛される〜

 前庭に五つの的(まと)が用意された。御簾(みす)が巻きあげられ、帝(みかど)も美しい五人の妃たちもその尊顔をあらわにした。
 五家代表の射手(いて)たちが的に対峙して並び立つ。
 この五人の射手たちは、さきの安曇(あずみ)家での歌会騒動で、矢を放った容疑で真っ先に疑われた者たちだった。左近衛府(さこんえふ)や検非違使(けびいし)から詮議を受けている。どうにか疑いが晴れたためこの神事に参加しているのだ。
 もっとも——疑いが晴れたのは呪術によって矢が誘導された可能性が高いと織葉(おりは)たちが尚侍(ないしのかみ)に報告したからだ。形の上では右近衛府(うこんえふ)少将橘颯登(たちばなはやと)の右近衛府大将への復命となっているが。
 織葉は女千人(おんなせんにん)と揶揄されるくらい秀でた武装女官として有名だったが、高官へ進言できる身分ではない。ここでは颯登の方が明らかに立場が上だった。
 五人の射手たちは、指定された順に一矢(いっし)ずつ射た。ひとりあたり五本の矢を射ることができる。
 警備にあたっている武官たちはその一挙手一投足に注視した。誤って護衛対象に矢が飛んでこないか常に警戒していた。もし飛んで来たら身をもって制す。
 織葉もそうだった。藤壺(ふじつぼ)の女御(にょうご)の御前に膝をついて射的を注視する。一人ずつ射てくれるので集中しやすいが、いつ何時待機している射手がこちらを振り返るかわからない。織葉は非常事態にも備える必要があった。
 いつでも立ち上がる準備はできている。矢が飛んで来たら主の前に立ちふさがるのだ。
 競射は静かに進んだ。的のど真ん中に命中したときには、あちこちから「おお」という声があがる。
 警備の武官たちは全体の守護を任されてはいるが、それぞれ関わりの強い五家の射手を応援しているのは明らかだった。
 織葉もまた藤宮本家の射手の弓に注目していた。
 この射手は素晴らしい。織葉も弓を習ったが、この領域にまでは達することはできなかった。織葉は素直に射手の腕に脱帽していた。
 そして滞りなく、平穏に競射は終了した。最も優秀な成績を修めたのは織葉が推す藤宮本家の射手だった。
 かくして今年の豊穣祭の蟇目の儀は、藤宮本家の射手が蟇目矢(ひきめや)を引く権利を手にした。
 織葉は安堵する。少なくともあの射手ならば振り返って主を狙うことはないだろう。あとは——