光が入らない部屋。けれど、内装は白と淡い金色を基調とした上品なもの。寝室、書斎、衣装室、浴室が繋がっていて生活に困ることはない。
空調や照明も整っているから酸素不足になることだってない。
たった一つの懸念はここが地下だと言うことぐらい。
部屋から出るにはお父様、マフィアのボスの許可が必要。でも、私は勝手に外に出歩いている。お父様はきっと敷地内だから見逃してくれているのだと思う。
それに——
「シア、入ってもいいですか?」
噂をすれば。
返事をするよりも先にドアを開けて姿を現したのは、少し伸びた黒髪に翡翠色の瞳をした護衛のアドリアーノ。リアンだった。
「入ってもいいなんて返してないけど?」
「悪いなお嬢様。暇してると思ったら早く会いに来てやりたかったんだ」
スーツを片手で整えながら、思ってなさそうなことを平然と口にする。
「あっそ。それよりもそれは何?」
私はリアンの態度よりも、リアンの片手にあるトレイの方が気になった。色とりどりのマカロンが沢山乗っている。
「おやつ。ボスからの差し入れ」
「お父様が?」
「そ、ディルシアナに持っていけって頼まれたんだよ」
時々おかしなことが起きることがある。
私はマカロンを好きだと一度も言ったことがないのに、狙ってるかのように好きな食べ物がお父様から贈られてくること。
もしかしたら、リアンが勝手に教えているのかもしれない。
「そう、じゃ美味しくいただいたって伝えておいて。ありがとうも忘れずにね」
「自分で言ってください」
私がその冷たい態度に「ケチ」と文句を言っている間に、リアンは気にもせずにテーブルの上にトレイを置いた。
「はいはい、わかりましたからお嬢様こちらで召し上がってください。ベッドに食べかす落とされると俺が困るんで」
私の掃除をするのはリアンしかない。と言うより、リアンしか許されていない。
仕方ないとため息をつきながら、私はベッドから出て椅子に座った。
食べる前に、目の前の美味しそうなマカロンに目を輝かせながらを見つめていると、違う方向からも視線を感じてくる。私はマカロンじゃないって言うのに。
「どうかしたの? リアン」
「一日中俺しか来ないからって、着替えないのはどうかと思っただけだ」
「リアンしか来ないから着替える必要がないの」
正直に言えば、外に出ないから着替えるのが面倒なだけ。リアンに本音を言ったら、きっとだらしないと怒られてしまう。だから言わない。
ピンク色のマカロンをパクリと半分食べた。一口で食べると、どうしても口の中がいっぱいになってしまってしんどいから半分。
中からイチゴジャムがとろりと溢れ、濃厚な甘みと酸味が広がっていく。
「美味しい……」
「お気に召したようで何より」
リアンはそのまま「こちらに腰掛けても?」と聞きながら正面の席に座った。許可求めるくせに、いつも返事する前に座るのはリアンの悪い癖だと思う。
「あ、そうですお嬢様」
「何? マカロンを食べるのに忙しいから何かあるなら手短にお願い」
お喋りするよりも、マカロンを食べたい。
「はいはい、わかりましたよディルシアナお嬢様」
リアンはため息をついて全くわかってなさそう。
「少し待っててください」
そう言ってリアンは立ち上がって部屋を出ていく。私の部屋を出るとリアンの部屋があるから、何かを取りに行ったのかも。
私は気にせずマカロンをパクパク食べているとリアンはすぐに戻ってきた。
「これ、シアが読みたがってた本で合ってるよな?」
リアンの手に持つワインレッド色のハードカバーの本に、私は目を見開いて食べる手を止めた。
「そ、それ!」
マカロンをそっちのけに私は思わず立ち上がって本に飛びついた。ずっと、ずっと読みたくて仕方がなかったとある恋愛小説の続刊。
少し昔の本で、絶版になってしまったから手に入れるのがとても難しく、諦めていた本だ。
「リアン、ありがとう!」
嬉しくて本を片手にリアンに抱きついた。
「シアが嬉しそうでよかったよ」
「どうやって手に入れたの? 苦労したんじゃないの?」
「まぁ……たまたま知り合いに持ってる人がいたんで譲ってもらっただけですよ」
曖昧な言い方に納得がいかない。けれどリアンの気遣いを無駄にはしたくはないし、リアンが言わないなら追及する気もない。
「本当にありがとう、リアン」
「シアの専属護衛として当然のことをしただけだ」
自由に外に出られない私にとって、リアンの存在はとても大きい。地下の部屋に閉じ込められていたとしても生活ができるのは、リアンがいるから。
「そろそろ離れろ。ほら、マカロンはもういいのか?」
「そうよマカロン!」
忘れていた。私はマカロンを食べている途中だったということに。本を持って席に戻り、リアンを見つめた。
「どうしましたか、お嬢様」
「リアン、お行儀が悪いけれど読みながら食べてもいい?」
「ここには俺とシアしかいない。気にせずそうしろ」
外ではお行儀よく、礼儀正しくいなければいけない。マフィアのボスの娘として、容易に恥を晒す真似などしたらどうなる事か。何を言われるか、どんなお叱りを受けるかわからないけれど、そんな説教みたいなのは嫌だ。
だからなるべく部屋でも、気をつけるようにはしていた。
でも今はそんなことを言ってる場合じゃない。
どうしても続きが読みたくて読みたくて仕方がないのだから。
「リアンがいいって言うならそうするわ」
「俺を口実に?」
「それがどうかしたの」
「いえ」
それからリアンは黙って椅子に座り直し、私が本を読んでる間はずっと静かにしていた。
なんだかんだと言いながら、邪魔しないところがリアンのいいところ。
読み終わったらリアンに感想でも言おうかしら。何言ってもわからないと思うけど、私が話したいだけだから。
途中、私は古い書物を読み始めたリアンをちらりと見た。
輪郭がはっきりとした顎元。本を読むために眼鏡をかけ、細く流し目になってる瞳。
今、リアンは私の目の前で何を思って読んでいるのだろう。
「ねぇ、リアン」
声をかけると、リアンはすぐに本を閉じて目を見つめてくる。
「どうしました?」
名前を呼んでみただけで、何も考えてなかった。
「……ううん。やっぱりなんでもないの」
「そうですか」
リアンは本を開き視線を文字に移す。
平然と私の目の前で本を読む。
警戒もせずに、私の側いる。
ずっと、私を守ってくれる。
そんな彼は、私の両親を殺した男だった。
空調や照明も整っているから酸素不足になることだってない。
たった一つの懸念はここが地下だと言うことぐらい。
部屋から出るにはお父様、マフィアのボスの許可が必要。でも、私は勝手に外に出歩いている。お父様はきっと敷地内だから見逃してくれているのだと思う。
それに——
「シア、入ってもいいですか?」
噂をすれば。
返事をするよりも先にドアを開けて姿を現したのは、少し伸びた黒髪に翡翠色の瞳をした護衛のアドリアーノ。リアンだった。
「入ってもいいなんて返してないけど?」
「悪いなお嬢様。暇してると思ったら早く会いに来てやりたかったんだ」
スーツを片手で整えながら、思ってなさそうなことを平然と口にする。
「あっそ。それよりもそれは何?」
私はリアンの態度よりも、リアンの片手にあるトレイの方が気になった。色とりどりのマカロンが沢山乗っている。
「おやつ。ボスからの差し入れ」
「お父様が?」
「そ、ディルシアナに持っていけって頼まれたんだよ」
時々おかしなことが起きることがある。
私はマカロンを好きだと一度も言ったことがないのに、狙ってるかのように好きな食べ物がお父様から贈られてくること。
もしかしたら、リアンが勝手に教えているのかもしれない。
「そう、じゃ美味しくいただいたって伝えておいて。ありがとうも忘れずにね」
「自分で言ってください」
私がその冷たい態度に「ケチ」と文句を言っている間に、リアンは気にもせずにテーブルの上にトレイを置いた。
「はいはい、わかりましたからお嬢様こちらで召し上がってください。ベッドに食べかす落とされると俺が困るんで」
私の掃除をするのはリアンしかない。と言うより、リアンしか許されていない。
仕方ないとため息をつきながら、私はベッドから出て椅子に座った。
食べる前に、目の前の美味しそうなマカロンに目を輝かせながらを見つめていると、違う方向からも視線を感じてくる。私はマカロンじゃないって言うのに。
「どうかしたの? リアン」
「一日中俺しか来ないからって、着替えないのはどうかと思っただけだ」
「リアンしか来ないから着替える必要がないの」
正直に言えば、外に出ないから着替えるのが面倒なだけ。リアンに本音を言ったら、きっとだらしないと怒られてしまう。だから言わない。
ピンク色のマカロンをパクリと半分食べた。一口で食べると、どうしても口の中がいっぱいになってしまってしんどいから半分。
中からイチゴジャムがとろりと溢れ、濃厚な甘みと酸味が広がっていく。
「美味しい……」
「お気に召したようで何より」
リアンはそのまま「こちらに腰掛けても?」と聞きながら正面の席に座った。許可求めるくせに、いつも返事する前に座るのはリアンの悪い癖だと思う。
「あ、そうですお嬢様」
「何? マカロンを食べるのに忙しいから何かあるなら手短にお願い」
お喋りするよりも、マカロンを食べたい。
「はいはい、わかりましたよディルシアナお嬢様」
リアンはため息をついて全くわかってなさそう。
「少し待っててください」
そう言ってリアンは立ち上がって部屋を出ていく。私の部屋を出るとリアンの部屋があるから、何かを取りに行ったのかも。
私は気にせずマカロンをパクパク食べているとリアンはすぐに戻ってきた。
「これ、シアが読みたがってた本で合ってるよな?」
リアンの手に持つワインレッド色のハードカバーの本に、私は目を見開いて食べる手を止めた。
「そ、それ!」
マカロンをそっちのけに私は思わず立ち上がって本に飛びついた。ずっと、ずっと読みたくて仕方がなかったとある恋愛小説の続刊。
少し昔の本で、絶版になってしまったから手に入れるのがとても難しく、諦めていた本だ。
「リアン、ありがとう!」
嬉しくて本を片手にリアンに抱きついた。
「シアが嬉しそうでよかったよ」
「どうやって手に入れたの? 苦労したんじゃないの?」
「まぁ……たまたま知り合いに持ってる人がいたんで譲ってもらっただけですよ」
曖昧な言い方に納得がいかない。けれどリアンの気遣いを無駄にはしたくはないし、リアンが言わないなら追及する気もない。
「本当にありがとう、リアン」
「シアの専属護衛として当然のことをしただけだ」
自由に外に出られない私にとって、リアンの存在はとても大きい。地下の部屋に閉じ込められていたとしても生活ができるのは、リアンがいるから。
「そろそろ離れろ。ほら、マカロンはもういいのか?」
「そうよマカロン!」
忘れていた。私はマカロンを食べている途中だったということに。本を持って席に戻り、リアンを見つめた。
「どうしましたか、お嬢様」
「リアン、お行儀が悪いけれど読みながら食べてもいい?」
「ここには俺とシアしかいない。気にせずそうしろ」
外ではお行儀よく、礼儀正しくいなければいけない。マフィアのボスの娘として、容易に恥を晒す真似などしたらどうなる事か。何を言われるか、どんなお叱りを受けるかわからないけれど、そんな説教みたいなのは嫌だ。
だからなるべく部屋でも、気をつけるようにはしていた。
でも今はそんなことを言ってる場合じゃない。
どうしても続きが読みたくて読みたくて仕方がないのだから。
「リアンがいいって言うならそうするわ」
「俺を口実に?」
「それがどうかしたの」
「いえ」
それからリアンは黙って椅子に座り直し、私が本を読んでる間はずっと静かにしていた。
なんだかんだと言いながら、邪魔しないところがリアンのいいところ。
読み終わったらリアンに感想でも言おうかしら。何言ってもわからないと思うけど、私が話したいだけだから。
途中、私は古い書物を読み始めたリアンをちらりと見た。
輪郭がはっきりとした顎元。本を読むために眼鏡をかけ、細く流し目になってる瞳。
今、リアンは私の目の前で何を思って読んでいるのだろう。
「ねぇ、リアン」
声をかけると、リアンはすぐに本を閉じて目を見つめてくる。
「どうしました?」
名前を呼んでみただけで、何も考えてなかった。
「……ううん。やっぱりなんでもないの」
「そうですか」
リアンは本を開き視線を文字に移す。
平然と私の目の前で本を読む。
警戒もせずに、私の側いる。
ずっと、私を守ってくれる。
そんな彼は、私の両親を殺した男だった。
