青の果てへと泳ぐきみへ

 

 そして今年はその、十年目の夏だ。

「……人魚の寿命ってどれくらいなんだろう。さすがにまだ生きてるよね?」
「さぁなー」
「ねぇ、何かお供えしたら来てくれるかな? 人魚姫の好物って何だと思う?」
「んー? ワカメ」
「……それは七瀬の好物でしょうに」
「キュウリでも投げてみりゃいんじゃね」
「それは河童!!」

 ……このやる気があるのかないのかよくわからないワカメ野郎とは、わたしが人魚姫に出会った年に二学期から転入した小学校で、彼がさらに遅れて転入してくる形で同じクラスになった。
 地元ならもしかしたら何か知っている子がいるかもしれない。そう思って人魚姫について手当たり次第に聞き回っていたわたしは、転入早々クラスメイトたちだけでなく先生たちからも好奇の目を向けられるようになってしまった。

「おれも見たことあるよ」

 そんな中、たったひとりそう声をかけてくれたのが、七瀬だ。
 彼もまたわたしと同じくカナヅチで、あの夏に岬から海に落ちて溺れていたところを誰かに助けてもらったという。
 その時に、決して人間のものではない、碧くゆらめく美しい尾を見たような気がしたと。
 誰にも言えなかったけれど、本当はまた会ってみたいと思っていたのだと。
 彼は女の子みたいにかわいらしい顔を赤く染めながら、そっと教えてくれた。
 わたしに、大事な「ともだち」ができた。

 ……なーんて甘酸っぱい気持ちになっていた頃が懐かしい。
 今やもう仲良しなお友達というより腐れ縁、腐れすぎた悪友みたいなものなのかもしれない。
 別に悪いことは何もしていないけれど。この小さな小さな町で、人魚姫探しを続けるわたしたちはすっかり変わり者扱いだ。

 七瀬は、嫌味はたくさん言うけれど、溜め息もたくさん吐くけれど、いつもわたしと一緒にこの場所へ来てくれる。
 太陽が地平線の向こうに沈んで空が暗くなっても、わたしがもう帰ろうかと言うまで、隣に座っていてくれる。
 そして何より、諦めろと言わない。人魚姫なんてやっぱりいるわけがないと、あれは自分たちの見間違いだったのだと、絶対に、言わない。

「……ねえ七瀬」
「んー」
「人魚姫、いるよね。また会えるよね」

 わたしが少し弱音を吐けば。

「……佐波がそう信じるなら、ちゃんと付き合ってやるから。心配すんな」

 必ずそう言って頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれるから。彼さえいれば何年だって、何十年だって、わたしはきっと待っていられる。