青の果てへと泳ぐきみへ

 

 空と海の深い青と、風が優しく撫でる緑に映える、小さな灯台の白。
 思わず見惚れていると、ふと、その下に伸びるなだらかな岩壁に何かが無数にきらめいているように見えた。
 ……もしかしたら、あそこにきれいな貝殻たくさんあるかも。
 気になった場所には行ってみずにはいられないのが子どもの性(さが)というもので。
 迷った末、あそこを探したら今度こそ引き返そうと胸に誓って、わたしは岬へと向かった。

 灯台へ続く道は平らに舗装されているものの、その周りはゴツゴツとした岩場になっていて、想像以上に高く勾配があった。
 下方で打ち付ける波と底の知れない海の深い青色を見ると足が竦んでしまう。
 ……でも、この岩光ってた。きっとどこかに貝殻がたくさんくっついてるに違いないんだ。
 そう信じて、少しずつ少しずつ、身を乗り出して岩肌を探索していた、その時。

「──わっ、」

 突然強い風が吹き、頭からふわりと浮いて飛ばされそうになった帽子をつかまえようとして。咄嗟に腕を前へ伸ばしたわたしの体はゆっくりと傾いていき、そして。

 聞こえたのは、ドボン、という激しい水音。
 その直後、わたしの視界はすべて青色に包まれた。

 手足が重くて動かせない。たくさんの小さな泡が体を通り過ぎ、上へ上へと昇っていく。その先にぼんやりと見える、買ってもらったばかりの帽子の影。
 影はだんだんと遠ざかり、小さくなっていく。
 青が、深くなっていく。体が、冷たくなっていく。
 沈んでいく。手を伸ばしても、もう届かない……。

「……え?」

 息がもたず、ついに意識を手放しかけた時だった。
 力なく伸ばされていたわたしの手を、誰かの手が、ぎゅっと掴んで引き上げた。
 そしてその手がわたしの体を抱き寄せた瞬間、視界の淵で、碧い尾びれのようなものが、ゆらりと揺れたのだ。

 目を覚ますと、わたしは冷たい海の中ではなく、お母さんのあたたかい腕の中に抱き込まれていた。
 岬近くの海岸で横たわっていたのを、探しに来た両親が見つけてくれたらしい。体に目立った怪我はなく、帽子もいつの間にか手元に戻ってきていた。
 けれどもそこにいたのはわたし一人だけで、海の中でわたしの手を取り助け出してくれた誰かの姿はどこにも見当たらなかった。岬の岩壁の光も、いつの間にか消えていた。

 まるで絵本で読んだおとぎ話だ。でもわたしは確かに見た。夢なんかじゃない。
 手に触れた感触を、あのきれいな碧色を、今でもこんなにはっきりと覚えている。あのひとはきっと、──人魚姫だ。

 もう一度だけでいい。会って、お礼を言いたくて。
 それからというもの、わたしは毎年夏になるとこの岬へ足を運んでいる。
 時には一日中海を眺めながら、彼女がまた現れやしないかと、ずっとずっと待ち続けている。