青の果てへと泳ぐきみへ

 

 恐る恐る灯台下の岩場を覗いてみると、そこについ先ほどまでいたはずの少女の姿が見当たらない。
 もしかしてと思い海へ潜る。そしてすぐに見つけた。
 星を探して自ら飛び込んだのか、はたまた足を滑らせ落ちてしまったのか。少女が、どんどん海底へと沈んでいく。

 その様子を眺めながら、またひとつ興味が芽生えた。
 尾びれもエラも水掻きもない人間はどうやって海の中を泳ぐのだろう。
 あの二本の足は海の中でも歩けるのだろうか。

 人魚はじっと観察する。けれども少女が泳ぎ始める気配はなく、立派な二本の足を動かすこともない。ただ重力に身を任せて沈んでいく。
 何やら様子がおかしい……そしてはたと気付いた。
 尾びれもエラも水掻きもない。人間ってもしかして、──泳げない?

 結論に至るのが先か、体が動くのが先か。人魚は風のように少女の元まで泳ぎ着き、その小さな体を抱きかかえて水面へ戻って来た。
 岬の岩場に横たえ、呼吸があるのを確認して安堵する。しかし意識がない。
 思い悩んだ末、岩場よりは見つけられやすいであろう岬近くの海岸へと少女を運んで。しばらくしてやって来た親らしき女性に少女が抱き上げられ、元来た道を戻って行くところまでを見届けた。

 その後人魚はすぐには帰らずに、しばらくの間小さな岬の海に留まっていた。
 海へ誘き寄せて観察しようだなんて、馬鹿なことをした。自分のせいで溺れさせてしまった。あの子は大丈夫だっただろうか。
 もう一度会いたい。どうかまたここへ来て、元気な姿を見せてくれないだろうか。

 ……あぁ、自分に足があったなら、あの子に会いに行けるのに。

 時間だけが過ぎていき、待てど暮らせど少女が再び岬へ現れることはなかった。しかし人魚がこの町の海に来て数日経った朝、驚くべきことが起きる。

 人魚が灯台下の岩場で目を覚ますと、彼の美しい碧色の尾びれが、少女と同じ二本の足に変わっていたのだ。