ずっと会いたいひとがいる。
焦がれてやまないひとがいる。
だからわたしはこの季節になるとここへ来て、「彼女」の帰りを、待っている。
「ん〜!きもち〜い!!」
両腕をいっぱいに伸ばし風を全身に受けながら見渡すのは、地平線のずっとずっと先までを覆い波打つ、深く澄んだ青。
見上げる空は快晴。雲なんてひとかけらもない。
高校の終業式が終わってすぐに自転車を飛ばして来た甲斐があった。絶好の海水浴日和だ。
今日こそはあのひとに会えそうな気がする!
「あーあ、今年も楽しい夏休みがやって来た……」
「やって来たね!!」
「せっかく海に来たのに泳ぎもしないでただひたすら海面を眺め続けるこのあほみたいな耐久レースな……」
宝石を溶かしたように青く輝く海をぐるりと一望できる小さな岬は、この町でいちばん美しく、静かな場所だ。
今この時間、わたしたち以外には誰もいない。わたしたちと海を隔てるものは何もない。
……そんな、これ以上ないほどの特等席にいるというのに。わたしの隣にはいつも、退屈そうに溜め息を吐く男が約一名。
「あほじゃないよ! あのひとが泳いできたら、ここからなら絶対見えるもん」
「アーソウデスネー。てかもういっそ飛び込んで待ってたほうが早いんじゃねーの。そしたらまた助けに来てくれるかもよ」
佐波、相変わらず泳ぐのへったくそなんだし。
ニヤリと笑いながらそんなことを言う顔立ちだけは上品なこの男──七瀬は、自分のことは平気で棚に上げ口を開けば嫌味ばかりたれる性悪野郎だ。
自分だって水泳の授業を全部見学するくらいまったく泳げないくせに。
……忘れもしない。まだ小さかった頃、わたしはこの海で溺れかけたことがある。
あれは家族でこの町へ引っ越して来た10年前の夏のこと。初めてこの海に遊びに来たわたしは、砂浜でピンク色の貝殻や白くつるつるとした石ころを探すのに夢中になっていた。
ずっとずっと探し続け、歩き続け、気付けばお父さんもお母さんもいない、人の姿は誰ひとり見当たらなくなるほど遠くまで来てしまっていて。
心細くなって、そろそろもと来た道を引き返そうかと顔を上げると、海岸の先に、灯台がひっそりと佇むこの岬を見つけた。


