――ざらざらする。
一度読んだことがあったが、読み終わるまではそれなりに時間がかかった。本を閉じて窓に目を向けると、だいぶ日が落ちている。
やっぱり、結末はバッドエンドだった。
千尋がどれだけ久遠のために努力しても報われない。言葉を交わしても分かり合えない。状況はどんどん悪くなる。全部がきれいには収まらない。
普段なら嫌だった。
例えば、千尋と久遠が話し合っている場面。
*
『そこまで我慢する必要はないんだよ。ほら、こうすれば俺も、久遠も、久遠の家族だって……』
『ありがとう。でも、……決めてるから』
『久遠……』
『千尋が考えてくれたのは嬉しい。それは本当だけど、俺は、千尋に迷惑をかけたくない。もういい加減分かってくれ。……俺に、千尋のその気持ちは、重いんだ』
*
普段は、というか今も嫌な終わり方だと思っている。
でも、今日は自分にも嫌なことがあった。
この場面を読んでいて、学校での出来事を思い出した。誰かのために行動して、それが不必要だったと言われたこと。
読み終わった今も友達とのことは引っかかっているし、完全に解決したわけではない。
――けど、俺のほうがマシじゃん。俺よりもひどい目にあってるじゃん。
よくないことだと、比べられないことだと分かっているが。
そう思わずにはいられなかった。
そして、
――なんか、ちょっと楽かも。
本の中でも嫌なことが起こっていて、『それでも人生は素晴らしい!』とは言わなかった。
ただ『こういうこともある』という顔をして終わった。
無理やり前向きな結論に持っていかなかった。
――ま、こんな日もあるか。
だからこそ、今日はこういう日だと思えるようになっていた。
「なに読んでたの? 笑うような話?」
「え?」
「伊織、笑顔だから」
虚を突かれた伊織を気にする様子もなく、朔はもう一度『なに読んでたの』と聞いてくる。
「えっと、これ。読んでた」
「『透明な春の終わり』」
「そう。この前薦めてくれたやつ」
「たしかに薦めたけど」
朔の視線が本の表紙にとまる。
「これ、バッドエンドだよ」
「知ってる。……読んだの二回目だけど、好きにはなれなさそうだったな」
「……そう?」
朔は目をしばたたかせた。
「なんでこれにしたの?」
「んー……気分かな。これがよかった」
「……そっか」
曖昧な返事にも、朔は深く質問することはしなかった。



