【短】君と読む、結末談義




――俺には、図書館で本を読む仲間がいる。



 今日の分の授業と帰り学活を終えて、教室は一気に騒がしくなった。

 伊織(いおり)は帰る準備を始める。忘れものを確認するために机の中に手を入れると、硬いものが当たった。


――やば、忘れてた。


 危うく教室に残したままにしてしまうところだった。これがないと行く意味がないというのに。

 伊織は机の中から一冊の本を取り出す。すぐにリュックへ入れると、立ち上がった。

 いつもと同じ速度で街道沿いを歩く。すると、右手側に大きな灰色の建物が見えてきた。

 『白浜台図書館』

 伊織は門をくぐった。放課後は毎日ここに通っているが、不思議と見飽きることがない。

 一階の奥の方、窓に向いた席。そこがお気に入りの場所であり、


――俺たちの交流場所。


「朔(さく)」


 伊織がリュックを肩から下ろしながら声をかける。

 すでに席についていた朔が、読書の手を止めた。朔の前髪が揺れ、隙間から伊織を見つめる目が覗く。


「どうも。……伊織、今日はジャージなんだ」

「そうだね。あ、珍しい?」

「珍しいよ。制服しか着てないから、持ってないかと思ってた」

「そんなことないって。普通に持ってるし。でも、制服のほうがほら、生徒!って感じがして気が引き締まるじゃん?」


 ふうん、と相槌を打つと、朔は読書に戻った。そっけないリアクション。だが伊織は気に留めなかった。

 横長のテーブルの左側に朔が座っていて、伊織はその隣の席にリュックを置いた。本を取り出して、返却してこようと歩き出す。

 伊織が通う白浜台高校から、白浜台図書館を挟んで反対側に白浜台東高校がある。朔はそこの生徒だ。

 学校は別で、連絡先を交換しているわけではない。待ち合わせはしていないから、いつ来るかも分からない。

 でも、来たら自然と隣に座るし、会話もする。そういう読書仲間。

 伊織が別の本を借りて戻ってくると、朔はまた本を閉じた。


「なににした?」

「『大切な君へ、愛を込めて』。知ってる?」

「ああ、それ」


 どうやら知っているらしい。


「朔は?」


 閉じた本を渡される。タイトルと表紙を見たが、知らないものだった。今度読んでみよう、とタイトルを記憶する。


「そういえばさ朔、今日はいつ来たの?」

「伊織が来る5分くらい前。そう言う伊織は、今日は遅かったね」


 見せてもらった本を返しながら答える。


「歩くペースは変わってないと思うんだけどなぁ。ちょっと教室出るの遅かったから、信号に引っかかっちゃったせいかも」

「結構前に僕より早く来るって言ったけど、ここ最近は僕のほうが早いね」

「偶然だって。次は俺のほうが早く来るから」

「そう」


 日が少しずつかたむく中、放課後の時間はゆっくりと流れていく。二人は閉館時間ぎりぎりまで過ごすと、ともに図書館を出た。