「夏鈴様、おやめください」
私が毒をもった美しい花へと手を伸ばした時、私の手の上に重なる手のひらがあった。
「誰なの!?」
そこにいたのは眼鏡の奥に鋭い瞳を持った、物腰柔らかな男性だった。
まだ年若く見える、美しい顔立ちながらも男性らしい体つきをしているその人に、確かに私は見覚えがあった。
「もしかして、千隼? なんでここに?」
私は彼にずっと抱いていた気まずさを忘れて、今いるここ……そう、田舎にある私の実家の周辺にはいない筈の千隼への疑問を抱く。
「僕はあなたを救いにきました。あなたの呪いをとく方法がついに分かったので」
彼の言う「呪い」という言葉に一瞬何だろうと思ったあと、ああ、「減衰」のことかと納得する。
昔のおどおどとしていた頃の千隼は、呪術庁の制服を着こなすその姿も相まって、今やその面影はない。
穏やかなのにどこか冷えた雰囲気すら感じられるその鋭利な眼差しは、私と視線が合うとまるで蜜飴のように甘く溶けていく。
「僕はあなたと離れていた間、ずっと探していました。あなたがまた呪術師として活躍できる方法を。あなたはこんなところで終わっていい方ではないのですから」
千隼の口調は熱を帯び、私を見つめる眼差しには隠しきれない信仰のような熱情が増していく。
しかし、私は千隼の言うことを不審にすら感じていた。
「減衰を防ぐ方法なんてあるはずない。そんなもの、私の母親が散々探しても見つからなかったんだから」
「あります、一つだけ」
千隼は私の手を握ると、にっこりと微笑んだ。
それは何の他意もなく、純粋な優しさすら感じられるものだった。
「夏鈴様、僕と結婚してくれませんか」
「は?」
今とんでもなくおかしなことを言われなかっただろうかと私はポカンとしてしまう。
「拒否しても構いませんが……もうあなたの実家にはあなたの身柄を僕がもらうことに許可は得られたので、あしからず。夏鈴様には僕と共に来ていただきます」
明らかに千隼の言っていることはおかしいし、いつの間にか私の外堀が埋められていたことに恐怖を覚える。
「でも、千隼は私に恋なんてしていなかったでしょう?」
なら結婚するなんておかしいと千隼の腕を掴むと、千隼はそんな私を愛おしそうに見つめ、言った。
「はい、もちろん」
「……そうだよね」
千隼の言葉に傷つきそうになり、私も別に千隼に恋なんてしてないと自分に言い聞かせる。
「減衰」を抱え、実家からも迫害されている私と千隼が結ばれても、千隼の害にしかならない。だから、私が恋をしてしまえばそれは千隼の為にならないのに。
「しかし、僕にとって最優先すべきはあなたです。僕の伴侶となることであなたが救われるなら、僕は喜んであなたの夫になりましょう」
そんな風に跪くように私の手を自身の額へと重ねる千隼は、まるで神へ身を捧げる殉教者のようだった。
私は千隼を裏切ったのに、どうして千隼は私を見捨てようとするどころか、私を救おうとしているのだろうか?
「千隼には私のことなんて忘れてほしかったのに」
「あなたを忘れるだなんて、僕にとっては青天の霹靂でした」
まるで飼い主に懐く犬のようにニコニコと笑う千隼を見て、私は彼と共にいた過去へと思いを馳せる。
あの頃の私たちは、いつだって一緒にいて、時には事件も解決して、お互いのことを信頼し合っていた。
……「呪術師として共にいてほしい」と望む彼の隣を、私が自分の都合で去ることを選ぶまでは。
私が毒をもった美しい花へと手を伸ばした時、私の手の上に重なる手のひらがあった。
「誰なの!?」
そこにいたのは眼鏡の奥に鋭い瞳を持った、物腰柔らかな男性だった。
まだ年若く見える、美しい顔立ちながらも男性らしい体つきをしているその人に、確かに私は見覚えがあった。
「もしかして、千隼? なんでここに?」
私は彼にずっと抱いていた気まずさを忘れて、今いるここ……そう、田舎にある私の実家の周辺にはいない筈の千隼への疑問を抱く。
「僕はあなたを救いにきました。あなたの呪いをとく方法がついに分かったので」
彼の言う「呪い」という言葉に一瞬何だろうと思ったあと、ああ、「減衰」のことかと納得する。
昔のおどおどとしていた頃の千隼は、呪術庁の制服を着こなすその姿も相まって、今やその面影はない。
穏やかなのにどこか冷えた雰囲気すら感じられるその鋭利な眼差しは、私と視線が合うとまるで蜜飴のように甘く溶けていく。
「僕はあなたと離れていた間、ずっと探していました。あなたがまた呪術師として活躍できる方法を。あなたはこんなところで終わっていい方ではないのですから」
千隼の口調は熱を帯び、私を見つめる眼差しには隠しきれない信仰のような熱情が増していく。
しかし、私は千隼の言うことを不審にすら感じていた。
「減衰を防ぐ方法なんてあるはずない。そんなもの、私の母親が散々探しても見つからなかったんだから」
「あります、一つだけ」
千隼は私の手を握ると、にっこりと微笑んだ。
それは何の他意もなく、純粋な優しさすら感じられるものだった。
「夏鈴様、僕と結婚してくれませんか」
「は?」
今とんでもなくおかしなことを言われなかっただろうかと私はポカンとしてしまう。
「拒否しても構いませんが……もうあなたの実家にはあなたの身柄を僕がもらうことに許可は得られたので、あしからず。夏鈴様には僕と共に来ていただきます」
明らかに千隼の言っていることはおかしいし、いつの間にか私の外堀が埋められていたことに恐怖を覚える。
「でも、千隼は私に恋なんてしていなかったでしょう?」
なら結婚するなんておかしいと千隼の腕を掴むと、千隼はそんな私を愛おしそうに見つめ、言った。
「はい、もちろん」
「……そうだよね」
千隼の言葉に傷つきそうになり、私も別に千隼に恋なんてしてないと自分に言い聞かせる。
「減衰」を抱え、実家からも迫害されている私と千隼が結ばれても、千隼の害にしかならない。だから、私が恋をしてしまえばそれは千隼の為にならないのに。
「しかし、僕にとって最優先すべきはあなたです。僕の伴侶となることであなたが救われるなら、僕は喜んであなたの夫になりましょう」
そんな風に跪くように私の手を自身の額へと重ねる千隼は、まるで神へ身を捧げる殉教者のようだった。
私は千隼を裏切ったのに、どうして千隼は私を見捨てようとするどころか、私を救おうとしているのだろうか?
「千隼には私のことなんて忘れてほしかったのに」
「あなたを忘れるだなんて、僕にとっては青天の霹靂でした」
まるで飼い主に懐く犬のようにニコニコと笑う千隼を見て、私は彼と共にいた過去へと思いを馳せる。
あの頃の私たちは、いつだって一緒にいて、時には事件も解決して、お互いのことを信頼し合っていた。
……「呪術師として共にいてほしい」と望む彼の隣を、私が自分の都合で去ることを選ぶまでは。

