恋人なら、一番がいい

 家に帰ってから、私は机の引き出しを開けた。
 あの日、気持ちを書き出したノートが入っている。
 ページを開くと、あのときの自分の言葉が並んでいた。

『悠真にとって、特別な存在でいたい』

 私はその文字を指でなぞった。
 今でも、その気持ちは変わらない。
 恋人なら、友達とは違う特別な存在でいたい。
 会いたいと思ったとき、相手にも会いたいと思ってほしい。
 自分との時間を、大切にしてほしい。
 きっと、これからもそう願うと思う。
 でも、恋人だからといって、いつでも何よりも優先されるべきなのかは、まだわからない。
 友達も、自分の時間も、大切にしたい気持ちは私にもある。
 だったら、悠真の気持ちも、私の気持ちも、どちらかを間違いだと決めつけなくていいのかもしれない。
 大切なのは、同じ考え方になることじゃなくて。
 違う考え方を持っていることを知って、それでもお互いの気持ちを伝え合うことなのかもしれない。
 私はノートを閉じた。
 恋人になったからといって、何もかもがわかるわけじゃない。
 好きだと言ってくれたからといって、不安がなくなるわけでもない。
 これからだって、寂しくなることはあると思う。
 それでも、今度はちゃんと伝えたい。
 会いたいときは、会いたいと。
 寂しいときは、寂しいと。
 自分の気持ちがわからなくなったら、このノートをまた開いてみよう。
 相手の気持ちを決めつける前に、自分の気持ちを言葉にしてみたい。
 そして、悠真の気持ちも聞いてみたい。
 恋人だから、必ず一番にしなければいけないのか。
 それとも、一番かどうかだけでは測れない特別さもあるのか。
 今の私には、まだ答えが出せない。
 けれど、ひとつだけわかったことがある。
 私は、悠真と一緒にいたい。
 私の気持ちを押しつけるのでも、寂しさを我慢するのでもなく。
 二人で話しながら、二人にとって心地いい関係を探していきたい。
 スマホを手に取る。
 悠真とのトーク画面には、次に会う約束が残っていた。
 次に会ったら、何を話そう。
 少しだけ不安で、それでも、前より楽しみな自分がいた。