好きじゃない、はず?

 あ、この人、わたしのこと好きなんだろうな。
 熱に浮かれた視線を冷静に眺めながら、我妻ひよはそう思った。
 ゆらゆらと落ち着かない瞳。困り眉。行き場をなくした指先。緊張で何度も嚥下を繰り返す細い喉元の骨。
 ぱっと見で、その感情が意味するところが手に取れる。それぐらい、彼は分かりやすかった。
 
 あーあ。
 わたしの想い他人もそれぐらい分かりやすかったらよかったのにな。
 そしたら、要らぬ感情に一喜一憂する必要もなかったのに。こんなに苦しい思いをすることもなかったのに。

 ーーーーーーそれは、今この目の前の人も一緒か。
 相手の気持ちを汲み取るよりも、自分の溢れ出した感情の収集に手一杯な「恋する人物」が、一刻前の自分とだぶって、揺れる。
 
 私もそんな感じだったのかな。
 
 羞恥に似たような、なんとも言えない落胆の気持ちが、墨の付いた筆を乱暴に溶かした水みたいに広がって、じわじわ心を濁していく。同時に舌の上にじんわり広がる苦味。

 恋ってほんと、盲目だ。

 主観じゃいくら輝いてたって、それが必ずしも伝えたい相手に伝わる訳じゃない。

 期待なんて、しない方がいいはずなのに。
 それなのに、本能で求めてしまう厄介なもの。
 
 わたしたちは、それをどうやって飼い慣らしていけばいいの??


「我妻さんのことが好きです。だから、付き合って欲しい」
 

 声を震わせながら、しかし立派に勇気を振り絞って見せて、その日、福士ゆたかはわたしに一世一代の告白をした。 

 7月16日。期末テスト目前の、放課後。
 午後四時五十分。
 まだまだ衰えの知らない陽の光をたっぷりと体に染み込ませた入道雲が、コオオオオと鈍い爆音を撒き散らす銀の巨体に切り裂かれていく。
 
 
「……うん。いいよ」

 たっぷり時間をかけてから、わたしはこくりと頷いた。
 
 目の前のこの人を、同じ目に合わせたくなかったから。
 わたしの感情を置き去りにしたとしたって、それが彼を傷つけていい理由にはならないと思ったから。


 その日、わたしは好きな人に振られた。
 初恋だった。
 
 そして告白された。


 初めて、彼氏ができた。