あのひこうき雲みたいに、まっすぐ。

 私と実咲が市民体育館の外に出て待っていると、白い揃いのポロシャツを着た、男子バレー部のメンバーが現れた。すでに解散したみたいで、三、四人ずつのグループに分かれて歩いている。

 男子部キャプテンのいるグループを見つけ、実咲が駆けよった。
 実咲は黙ってキャプテンの肩をたたいて、二人は力強く握手をした。
 いつも憎まれ口を叩き合ってた二人。でも本当はお互い、すごくリスペクトし合ってる。実咲は人とのつながりを、本当に大切にする人なのだ。

 さっきの、実咲の話を思い出す。
 ――芽衣はずっと、我慢してたと思う。悠加に憧れてバレー部に入ったんだから。

 練習が終わった後に、授業の合間に、いつも私に話しかけてくれた芽衣。私を和ませてくれた芽衣。
 芽衣だって、人とのつながりを大切にする人だ。
 私はどうして、嫌なことばかりを思い出していたんだろう。

 洸平だって。
 短い間だけど一緒に時間を過ごして、楽しいこともたくさんあったのに。
 優しい言葉だって、かけてくれたのに。

 さっきの、試合の終わり方。洸平の得意のクイックが、相手のブロックにつかまった。
 少し前の私なら、ほら見ろと思ってしまったかもしれない。でも今は、心から良かったと思える。
 洸平は自分が信じた一番得意な攻撃で、最後までチャレンジできたんだから。


 私は、洸平を探した。
 すると会場の入口から、4,5人のグループで歩いてくる洸平が見えた。

 私は洸平に、何を伝えたらいいんだろう。

「最後までクイックで勝負できてよかったね」?
 ちがう。それは、私が言うことじゃない。

「あのときは、ごめんね」?
 それも、ちがう。
 あのときは言葉や態度がきつすぎて、傷つけてしまったかもしれない。でも私も一生懸命頑張ってきたから、ゆずれないものがあった。
 洸平も、一生懸命だった。
 芽衣だって。

 誰も、まちがってなんかなかったんだ。 


 私は、洸平のところへ走った。
「ねえ」
 洸平が、こちらを驚いたように見る。ずっと体育館で練習しているはずなのに、相変わらず日焼けした顔。こんなに近くで見るのは、あの頃以来だ。

「お疲れさま」
 洸平は「うん」とうなずいた。まだ少し、驚いた顔をしている。
「本当に、お疲れさま」
 洸平はかすかに微笑んでうなずいた。そして
「ありがとう」
 低いけど優しい声で、そう言った。
 私も何か言葉を返したかったけど、それ以上は何も出てこなかった。

 一緒に歩いていた部員が、私たちから少し離れている。洸平は彼らを気づかうように見て、「じゃ」と私に声をかけ、行ってしまった。

 通りすぎた洸平を、目で追った。
 小さくなる洸平を見ていると、洸平は一緒にいた部員と別れて、一人で市民体育館の正門へ向かった。
 そこには、女の子が一人待っていた。芽衣だった。
 洸平は芽衣の小さい肩をそっと抱きよせ、二人は並んで帰り道を歩いて行った。


 見上げると、抜けるような青空だった。
 ひこうき雲がまっすぐに伸びている。まるで、力強く打たれたボールの軌道みたいに。
「いいなぁ――」

 いつかまた、あんな風に飛べるんだろうか。
 バレー部のエースの、私じゃなくなっても。
 それで誰かをまた好きになって、その人に思われたりするんだろうか。

 ――リセットじゃない。足すんだよ。
 さっきの実咲の言葉が、胸の奥にこだました。
 空は、まるですべてを飲み込むみたいに広がっている。


 <終>