「具合は、どう?」
夕方仕事から帰ったお母さんが、リビングのソファにもたれた私に声をかけた。私は「もう大丈夫」とできるだけ明るく答える。
「部活を辞めても、油断大敵ね」
お母さんは、冷蔵庫からお茶を取り出しグラスに注ぎながら、安心したように一息つく。
保健室に駆け込んだ翌日、学校を休んだ。
芽衣が言っていた通り、私は生理のときよく体調を崩す。つい無理をして、あんな風に貧血を起こして倒れるのだ。
お母さんは「ねぇ悠加」と私を見た。
「大学に行っても、バレーを続けるの? S大のバレー部に入りたいって、思ってる?」
私は顔を上げた。お母さんと目が合う。立ったままお茶を飲み干し、グラスを置いて微笑んでいた。
「……まだ、わかんない」
本音だった。本当に、自分がどうしたいのかわからない。
S大は、今の第一志望の大学だ。スポーツ科学科という学科があって、そこを志望している。でも、S大のバレー部に入るかはまだ決められない。S大のバレー部は大学のバレーリーグの中でも強くて、練習も厳しいにちがいないのだ。
「多分私、S大の練習にはついていけないんじゃないかなって……東高で自由に楽しくやってきたし」
お母さんはうなずいた。でも、と私は言う。
「私バレー辞めたら、何も残らない気がする」
「そんなことないよぉ」
お母さんは笑った。
「何かあるでしょ。大学になったらやりたいこと。学科の勉強でもいいけど、関係ないことでもいいんだよ。サークルでも、バイトでも」
私は首をかしげる。お母さんはソファに歩みよって、私の隣に腰かけた。
「悠加は、ずっとバレーひと筋だったもんね」
優しい声を聞くと、なんだか逆に居心地が悪くなる。
「だから、何も残らないって。バレーやめたら」
投げやりに言った。完全に八つ当たりだ。
お母さんは「ちがうちがう」と私の頭をなでた。
「続けなくたって、生かすことはできるよ。ずっと頑張ってやってきたんだもん。今度は裏方というか、支える側になる勉強するのもいいんじゃない? 体育の先生とか、トレーナーとか――悠加はプレーに一生懸命だったけど、支える側もいいと思うよ」
支える側、とつぶやくと、お母さんはうなずいた。
「そうね。高校で、実咲ちゃんや芽衣ちゃんがやってくれたようなことよ」
途端に、胸がずきんと痛んだ。思わず立ち上がる。今、芽衣の名前は聞きたくなかった。
悠加はプレーに一生懸命だったけど。その通りだ。実咲や芽衣みたいに、周りに目配りができない。私もあんな風に、ならなきゃいけないんだろうか。
「あんまり、向いてない気がする」
私はリビングに背中を向けて、自分の部屋へ向かった。お母さんが、苦笑いまじりにふっとため息をつくのが聞こえた。
夕方仕事から帰ったお母さんが、リビングのソファにもたれた私に声をかけた。私は「もう大丈夫」とできるだけ明るく答える。
「部活を辞めても、油断大敵ね」
お母さんは、冷蔵庫からお茶を取り出しグラスに注ぎながら、安心したように一息つく。
保健室に駆け込んだ翌日、学校を休んだ。
芽衣が言っていた通り、私は生理のときよく体調を崩す。つい無理をして、あんな風に貧血を起こして倒れるのだ。
お母さんは「ねぇ悠加」と私を見た。
「大学に行っても、バレーを続けるの? S大のバレー部に入りたいって、思ってる?」
私は顔を上げた。お母さんと目が合う。立ったままお茶を飲み干し、グラスを置いて微笑んでいた。
「……まだ、わかんない」
本音だった。本当に、自分がどうしたいのかわからない。
S大は、今の第一志望の大学だ。スポーツ科学科という学科があって、そこを志望している。でも、S大のバレー部に入るかはまだ決められない。S大のバレー部は大学のバレーリーグの中でも強くて、練習も厳しいにちがいないのだ。
「多分私、S大の練習にはついていけないんじゃないかなって……東高で自由に楽しくやってきたし」
お母さんはうなずいた。でも、と私は言う。
「私バレー辞めたら、何も残らない気がする」
「そんなことないよぉ」
お母さんは笑った。
「何かあるでしょ。大学になったらやりたいこと。学科の勉強でもいいけど、関係ないことでもいいんだよ。サークルでも、バイトでも」
私は首をかしげる。お母さんはソファに歩みよって、私の隣に腰かけた。
「悠加は、ずっとバレーひと筋だったもんね」
優しい声を聞くと、なんだか逆に居心地が悪くなる。
「だから、何も残らないって。バレーやめたら」
投げやりに言った。完全に八つ当たりだ。
お母さんは「ちがうちがう」と私の頭をなでた。
「続けなくたって、生かすことはできるよ。ずっと頑張ってやってきたんだもん。今度は裏方というか、支える側になる勉強するのもいいんじゃない? 体育の先生とか、トレーナーとか――悠加はプレーに一生懸命だったけど、支える側もいいと思うよ」
支える側、とつぶやくと、お母さんはうなずいた。
「そうね。高校で、実咲ちゃんや芽衣ちゃんがやってくれたようなことよ」
途端に、胸がずきんと痛んだ。思わず立ち上がる。今、芽衣の名前は聞きたくなかった。
悠加はプレーに一生懸命だったけど。その通りだ。実咲や芽衣みたいに、周りに目配りができない。私もあんな風に、ならなきゃいけないんだろうか。
「あんまり、向いてない気がする」
私はリビングに背中を向けて、自分の部屋へ向かった。お母さんが、苦笑いまじりにふっとため息をつくのが聞こえた。
