高く上がったボールをアタッカーがとらえ、ネットの向こうに鋭くたたきつけた。
うおおおい!
男子バレー部員の掛け声が、地鳴りみたいに体育館に響く。
私はそっと深呼吸をして、真上にぐっと伸びをした。
「私たちも打ちたいねぇ」
「ほーんと」
隣にいる実咲の言葉に、私は伸びをしたまま答えた。私のやたらに長い腕は、制服のブラウスからきゅうくつそうに伸びている。まるで、天井を突き上げるみたいに。
実咲は、ふふ、と笑った。
「悠加はきっと、そう思ってるだろうなって。だから連れてきた」
「――集合っ!」
男子部のキャプテンがさけんだ。練習を眺める私たちに気づいたのだ。
「いいから、いいからっ。やめて」
私と実咲は、驚いて止めた。キャプテンはにやにやしている。
「よくないだろ。女子部のレジェンドがじきじきに来てくれたんだぞ。全員、集合!」
「絶対いじってるでしょ。ほんと、やめて」
実咲のとがめるような口調にキャプテンはまたにやにやして、チームメイトたちの方を振り向いて両手を振った。
「はい、噓、嘘ー。練習再開!」
女子バレー部キャプテンの実咲と、いちおう――いやけっこうちゃんと、エースアタッカーだった私。
ただしそれは、先月までの話。女子バレー部は地区大会で敗退し、私たち3年生は引退した。
男子バレー部は、県大会に進んだ。私たちのいた女子バレー部の後輩たちは今休みの期間で、実咲が「じゃ男子部の練習見に行こうよ」と誘ってくれた。
最近、ずっともやもやしている。部活をやっていた頃は悩みがあっても、大声を出してボールを追いかければ忘れられたのに。
男子バレー部員たちのスパイク練習が続く。私は、自然と洸平を目で追っていた。
洸平はセンターのネットに近い場所でかまえ、短く上がったトスにタイミングを合わせクイックを決める。
本当に上手くなった。1年生のあの頃より。
洸平を好きだったあの頃より、ずっと。
二人おそろいで、という声がして振り向くと、男子バレー部の顧問の石川先生がこちらにやってきた。
「部活引退すると、物足りないか」
「物足りないです! もううずうずしちゃって」
実咲が答える。私も同じ気持ちだった。
「みんな、調子いいですね」
私が声をかけると、石川先生は大きくうなずいた。
いけー、と掛け声が聞こえて、順番がきた洸平が再びスパイクを打つ。洸平は独特のステップを踏んで床を蹴り、力強くボールを打つと、向こうのコートに鋭くボールが突き刺さった。
ナイスー、と部員の掛け声が響く。
「男子バレー部一番の、成長株」
洸平を満足そうに眺めながら、石川先生がつぶやいた。
「すごく、うまくなりましたよね……1年生の入部した頃に比べたら」
実咲が言う。
洸平は中学時代ハンドボール部員で、バレーボールは未経験だった。
スパイクを打った後ネットにつっこんだり、山なりのオープントスをとらえられず空振りしたり。1年生の入部してまもない頃は、そんな状態だった。
小学生の頃からバレーボールのクラブチームに入りプレーしていた私から見ると、洸平のプレーは本当に初心者っぽかった。
だけど洸平はぐんぐん強くなり、活躍するようになった。1年生が終わる頃には、中学からバレーをやっている他の部員に負けないくらいになった。
「芽衣のおかげなんだよな、もともとは」
「えっ」
石川先生の言葉に、私と実咲は思わず声をそろえた。
芽衣は、女子バレー部のマネージャーだ。私と同じ3年生だから、一緒に引退した。
女子バレー部の顧問の先生はバレー経験がないので、石川先生は、女子バレー部の練習も一緒に見てくれている。あまり他校にはないことだ。芽衣は勉強熱心だったから、よく石川先生のところに話を聞きに行っていた。
「まだ1年のときに、洸平はむずかしいなぁって芽衣にこぼしたんだ。やっぱりあいつはハンドをやっていて、そのクセが抜けないから……今のままではレギュラーになるのはむずかしいなって」
その通りだった。1年生の頃洸平はなかなかうまくならず、悩んでいた。そんなときに私は洸平と仲良くなったのだ。
そうしたらさ、芽衣が。石川先生は笑って私と実咲の方を向いた。
「洸平くんはすごく運動神経がいいと思います、バレー初心者でも、なんとかして生かせないんですか? って言うんだよ。結局経験者しかレギュラーになれないんだなってわかると、後から入ってくる初心者の人もモチベーションが上がらないと思います……って」
「芽衣がそんなこと」
実咲が目を丸くしている。
「知らなかった? でも俺も、もっともだなと思ったよ。それじゃ、結局強豪校とやってること一緒だもんな、つまんないよな……そう思って、いろいろ考えてやってみたんだよ。芽衣にも手伝ってもらったよ。資料集めてもらったり、動画とってもらったり」
はじめて聞く話で、私も実咲も驚いた。実咲が何か言おうとしたけど先生は、部員たちに呼ばれて戻ってしまった。
「そんなことがあったなんて」
実咲が目をぱちぱちさせながら言う。私もそれにうなずいたけど、何も言えなかった。
1年生のあの頃から、洸平は変わった。バレーがうまくなった。そして、私とは仲たがいした。
「芽衣と洸平、つきあってるんだよね」
急に実咲が言った。
――え?
思いがけない一言が、胸の奥に突き刺さった。私はそれを必死に隠しながら「へー」とうなずく。
「――そうだったんだ。ちょっと意外だけど」
「いつからなのかわからないけど……多分、まだつきあいはじめたばかりだと思う。一緒に帰るの見たし、他にも目撃者多数なんだよね。最近になって急に」
そうなんだぁ、と私は、平気なふりをして実咲に相づちを打つ。前を向いたまま話していた実咲は、私の方を向いた。
「悠加、昔つきあってたじゃない? 洸平と」
「……つきあってないよ」
「つきあってた、みたいな感じだったじゃない」
私は、答えにつまった。思い出したくないことがいろいろあって、うまく言葉が出てこない。
「――みたいな感じといえば、そうだけど」
「でも、もう大丈夫? だよね?」
実咲はいかにも元キャプテンらしい、きっぱりした口調で言う。思わず隣を見ると、ばちっと目が合った。
「大丈夫」
勢いにおされて、思わずそう答えた。
んっ、実咲も大きくうなずいた。
「……とにかく、そういうわけ!」
うおおおい!
男子バレー部員の掛け声が、地鳴りみたいに体育館に響く。
私はそっと深呼吸をして、真上にぐっと伸びをした。
「私たちも打ちたいねぇ」
「ほーんと」
隣にいる実咲の言葉に、私は伸びをしたまま答えた。私のやたらに長い腕は、制服のブラウスからきゅうくつそうに伸びている。まるで、天井を突き上げるみたいに。
実咲は、ふふ、と笑った。
「悠加はきっと、そう思ってるだろうなって。だから連れてきた」
「――集合っ!」
男子部のキャプテンがさけんだ。練習を眺める私たちに気づいたのだ。
「いいから、いいからっ。やめて」
私と実咲は、驚いて止めた。キャプテンはにやにやしている。
「よくないだろ。女子部のレジェンドがじきじきに来てくれたんだぞ。全員、集合!」
「絶対いじってるでしょ。ほんと、やめて」
実咲のとがめるような口調にキャプテンはまたにやにやして、チームメイトたちの方を振り向いて両手を振った。
「はい、噓、嘘ー。練習再開!」
女子バレー部キャプテンの実咲と、いちおう――いやけっこうちゃんと、エースアタッカーだった私。
ただしそれは、先月までの話。女子バレー部は地区大会で敗退し、私たち3年生は引退した。
男子バレー部は、県大会に進んだ。私たちのいた女子バレー部の後輩たちは今休みの期間で、実咲が「じゃ男子部の練習見に行こうよ」と誘ってくれた。
最近、ずっともやもやしている。部活をやっていた頃は悩みがあっても、大声を出してボールを追いかければ忘れられたのに。
男子バレー部員たちのスパイク練習が続く。私は、自然と洸平を目で追っていた。
洸平はセンターのネットに近い場所でかまえ、短く上がったトスにタイミングを合わせクイックを決める。
本当に上手くなった。1年生のあの頃より。
洸平を好きだったあの頃より、ずっと。
二人おそろいで、という声がして振り向くと、男子バレー部の顧問の石川先生がこちらにやってきた。
「部活引退すると、物足りないか」
「物足りないです! もううずうずしちゃって」
実咲が答える。私も同じ気持ちだった。
「みんな、調子いいですね」
私が声をかけると、石川先生は大きくうなずいた。
いけー、と掛け声が聞こえて、順番がきた洸平が再びスパイクを打つ。洸平は独特のステップを踏んで床を蹴り、力強くボールを打つと、向こうのコートに鋭くボールが突き刺さった。
ナイスー、と部員の掛け声が響く。
「男子バレー部一番の、成長株」
洸平を満足そうに眺めながら、石川先生がつぶやいた。
「すごく、うまくなりましたよね……1年生の入部した頃に比べたら」
実咲が言う。
洸平は中学時代ハンドボール部員で、バレーボールは未経験だった。
スパイクを打った後ネットにつっこんだり、山なりのオープントスをとらえられず空振りしたり。1年生の入部してまもない頃は、そんな状態だった。
小学生の頃からバレーボールのクラブチームに入りプレーしていた私から見ると、洸平のプレーは本当に初心者っぽかった。
だけど洸平はぐんぐん強くなり、活躍するようになった。1年生が終わる頃には、中学からバレーをやっている他の部員に負けないくらいになった。
「芽衣のおかげなんだよな、もともとは」
「えっ」
石川先生の言葉に、私と実咲は思わず声をそろえた。
芽衣は、女子バレー部のマネージャーだ。私と同じ3年生だから、一緒に引退した。
女子バレー部の顧問の先生はバレー経験がないので、石川先生は、女子バレー部の練習も一緒に見てくれている。あまり他校にはないことだ。芽衣は勉強熱心だったから、よく石川先生のところに話を聞きに行っていた。
「まだ1年のときに、洸平はむずかしいなぁって芽衣にこぼしたんだ。やっぱりあいつはハンドをやっていて、そのクセが抜けないから……今のままではレギュラーになるのはむずかしいなって」
その通りだった。1年生の頃洸平はなかなかうまくならず、悩んでいた。そんなときに私は洸平と仲良くなったのだ。
そうしたらさ、芽衣が。石川先生は笑って私と実咲の方を向いた。
「洸平くんはすごく運動神経がいいと思います、バレー初心者でも、なんとかして生かせないんですか? って言うんだよ。結局経験者しかレギュラーになれないんだなってわかると、後から入ってくる初心者の人もモチベーションが上がらないと思います……って」
「芽衣がそんなこと」
実咲が目を丸くしている。
「知らなかった? でも俺も、もっともだなと思ったよ。それじゃ、結局強豪校とやってること一緒だもんな、つまんないよな……そう思って、いろいろ考えてやってみたんだよ。芽衣にも手伝ってもらったよ。資料集めてもらったり、動画とってもらったり」
はじめて聞く話で、私も実咲も驚いた。実咲が何か言おうとしたけど先生は、部員たちに呼ばれて戻ってしまった。
「そんなことがあったなんて」
実咲が目をぱちぱちさせながら言う。私もそれにうなずいたけど、何も言えなかった。
1年生のあの頃から、洸平は変わった。バレーがうまくなった。そして、私とは仲たがいした。
「芽衣と洸平、つきあってるんだよね」
急に実咲が言った。
――え?
思いがけない一言が、胸の奥に突き刺さった。私はそれを必死に隠しながら「へー」とうなずく。
「――そうだったんだ。ちょっと意外だけど」
「いつからなのかわからないけど……多分、まだつきあいはじめたばかりだと思う。一緒に帰るの見たし、他にも目撃者多数なんだよね。最近になって急に」
そうなんだぁ、と私は、平気なふりをして実咲に相づちを打つ。前を向いたまま話していた実咲は、私の方を向いた。
「悠加、昔つきあってたじゃない? 洸平と」
「……つきあってないよ」
「つきあってた、みたいな感じだったじゃない」
私は、答えにつまった。思い出したくないことがいろいろあって、うまく言葉が出てこない。
「――みたいな感じといえば、そうだけど」
「でも、もう大丈夫? だよね?」
実咲はいかにも元キャプテンらしい、きっぱりした口調で言う。思わず隣を見ると、ばちっと目が合った。
「大丈夫」
勢いにおされて、思わずそう答えた。
んっ、実咲も大きくうなずいた。
「……とにかく、そういうわけ!」
