学校が終わった後、私は一度家に帰り、少し休んでからカズキを迎えに保育園まで行く。
梅雨が明け、からっとした天気が続いている。日が落ちるのも遅くなり、六時でもまだ明るい。
テストが終わったら、すぐに夏休みがやってくる。今年の夏休みは何をしよう。また部活三昧かな? なんて考えながら、小道を歩く。
保育園に近づくにつれて、子どもたちの遊ぶ声が大きくなっていく。家から保育園までは徒歩十五分ほどの距離だ。遅れないようにと余裕を持って家を出たため、少し早く着いてしまい、私は邪魔にならないところで、持ってきた英単語帳を見て時間を潰した。
「あ、佐藤さんだ」
そんな声が聞こえ、顔を上げると、そこには私と同じ制服の女子が立っていた。
高い位置でポニーテールをした、キリッとした目の、気の強そうな彼女は、同じクラスの丸山さんだ。クラスの中でも派手なグループに属しており、社交的で常に周りには人がたくさんいる。
教室の端の方で仲の良い限られた友達としか話さない私とは正反対で、いつも大人数でワイワイしている。何事にも動じなさそうで、堂々としているから、小心者の私には近寄りがたくて、苦手だった。毎日が楽しそうで、すぐ色々気にする私とは違って、きっと悩むこともあんまりないのだろうなと勝手に思っている。
向こうだって、私のような大人しい人間は苦手だろう。私たちは交わらない方が、両方にとって最善なのだ。それなのに、先生たちは無理にでも仲良くさせようとしてくるから厄介だ。色々な人がいるんだ。クラスみんなが仲良くだなんて、不可能なことだ。
しかし、目が合ってしまった以上、このままスルーするわけにもいかない。顔見知りが一番気まずい。私はとりあえず会釈をした。それで終わると思いきや、丸山さんは私に話しかけてきた。
「なんでそんなによそよそしいの? 同じクラスじゃん」
「え? いや、まあ……」
私は戸惑う。何というか、怖い。クラスの中心人物に話しかけられたことによって、変な汗がどっと湧き出てくる。ここで何かやらかしたら、明日にはきっとクラス中に知れ渡って、私の居場所がなくなる。
「佐藤さんもお迎え?」
「あ、うん。お母さんに頼まれて。……丸山さんも?」
「うん、そうだよ」
意外だ、と思った。まず丸山さんに兄弟がいることも知らなかったし、お家の人の手伝いとかもちゃんとするんだな、と驚いた。
「勉強、してんの?」
丸山さんは私の手元を見ながら尋ねる。
「ま、まあ、とりあえずね……」
特別頭が良いわけではないのに、一丁前に外で勉強なんかをしていることが急に恥ずかしくなって、慌てて単語帳を閉じた。
「偉いね。私なんかとっくに諦めてるよ。いつも一夜漬けだもん」
自嘲気味に丸山さんは言う。確かに、なんとなく勉強は苦手そうなイメージはある。
私はとりあえず苦笑した。良い返しが思いつかず、沈黙が流れる。せっかく話しかけてくれたのに、不甲斐ない。
そんな時、園児たちが先生に連れられて外に出てきたので、私はホッとした。
「あ、終わったっぽいね。行こ」
「う、うん」
「クラスは?」
「えっと、さくら組だよ」
答えると、丸山さんは目を丸くした。
「一緒じゃん。うちの弟もさくら組だよ」
すごい偶然だ。姉と弟がそれぞれ同じ学校と保育園で、同じクラスだなんて。どんな確率だと思った。
「あ、お姉ちゃん!」
私を見つけたカズキが駆け寄ってくる。
そして、カズキは丸山さんの方を指さして言った。
「タイガくんのおねえちゃんもいる!」
「え?」
私は困惑しながら和樹と丸山さんを交互に見た。
「わーお。そんなことあるんだね。カズキくんのお姉ちゃんって、佐藤さんだったんだ」
丸山さんは言った。
「うちの弟が、仲良くしてもらっているみたいで。ほら来た、タイガ!」
丸山さんによく似た大きな目の男の子が嬉しそうに駆け寄ってきた。タイガという名前は、カズキとお母さんの会話の中でよく出てくるのを聞く。まさか、よりによって丸山さんの弟と和樹が仲良かったとは。
「ねー、おねえちゃん。ボクまだ遊びたい」
カズキがそんなことを言い出す。
「え? 何言ってるの」
私は一刻も早く帰りたい。
「タイガくん、いつもおねえちゃんと公園に行ってるんだって」
和樹は訴えるように言う。
「カズキも行っちゃだめ?」
勘弁してほしい。それはさすがに、私が気まずい。丸山さんだって、私なんかと一緒だったら嫌なはず。
私と丸山さんは正反対で、ちゃんと話すのも今日が初めてなの。私は緊張しすぎて、今すぐにでもここを逃げ出したいの。意気地のないお姉ちゃんでごめんね。と、心の中でカズキに謝った。
公園に行ったとして、カズキはタイガくんと仲良く遊ぶだろう。その間私たちは? 何を話せば良い?
「あたしはいつものことだから。佐藤さんが良いなら、別に一緒に行ってもかまわないけど」
丸山さんはそう言う。
私は頭をフル回転させる。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうすれば上手く断れる? 丸山さんだって、うちの和樹がそんなことを言った手前、拒否しにくかっただけかもしれない。
「俺も遊びたい。お願い、カズキのねえちゃん」
そんなタイガくんのとどめの一撃を受け、私は嫌とは言えずじまいに終わった。
梅雨が明け、からっとした天気が続いている。日が落ちるのも遅くなり、六時でもまだ明るい。
テストが終わったら、すぐに夏休みがやってくる。今年の夏休みは何をしよう。また部活三昧かな? なんて考えながら、小道を歩く。
保育園に近づくにつれて、子どもたちの遊ぶ声が大きくなっていく。家から保育園までは徒歩十五分ほどの距離だ。遅れないようにと余裕を持って家を出たため、少し早く着いてしまい、私は邪魔にならないところで、持ってきた英単語帳を見て時間を潰した。
「あ、佐藤さんだ」
そんな声が聞こえ、顔を上げると、そこには私と同じ制服の女子が立っていた。
高い位置でポニーテールをした、キリッとした目の、気の強そうな彼女は、同じクラスの丸山さんだ。クラスの中でも派手なグループに属しており、社交的で常に周りには人がたくさんいる。
教室の端の方で仲の良い限られた友達としか話さない私とは正反対で、いつも大人数でワイワイしている。何事にも動じなさそうで、堂々としているから、小心者の私には近寄りがたくて、苦手だった。毎日が楽しそうで、すぐ色々気にする私とは違って、きっと悩むこともあんまりないのだろうなと勝手に思っている。
向こうだって、私のような大人しい人間は苦手だろう。私たちは交わらない方が、両方にとって最善なのだ。それなのに、先生たちは無理にでも仲良くさせようとしてくるから厄介だ。色々な人がいるんだ。クラスみんなが仲良くだなんて、不可能なことだ。
しかし、目が合ってしまった以上、このままスルーするわけにもいかない。顔見知りが一番気まずい。私はとりあえず会釈をした。それで終わると思いきや、丸山さんは私に話しかけてきた。
「なんでそんなによそよそしいの? 同じクラスじゃん」
「え? いや、まあ……」
私は戸惑う。何というか、怖い。クラスの中心人物に話しかけられたことによって、変な汗がどっと湧き出てくる。ここで何かやらかしたら、明日にはきっとクラス中に知れ渡って、私の居場所がなくなる。
「佐藤さんもお迎え?」
「あ、うん。お母さんに頼まれて。……丸山さんも?」
「うん、そうだよ」
意外だ、と思った。まず丸山さんに兄弟がいることも知らなかったし、お家の人の手伝いとかもちゃんとするんだな、と驚いた。
「勉強、してんの?」
丸山さんは私の手元を見ながら尋ねる。
「ま、まあ、とりあえずね……」
特別頭が良いわけではないのに、一丁前に外で勉強なんかをしていることが急に恥ずかしくなって、慌てて単語帳を閉じた。
「偉いね。私なんかとっくに諦めてるよ。いつも一夜漬けだもん」
自嘲気味に丸山さんは言う。確かに、なんとなく勉強は苦手そうなイメージはある。
私はとりあえず苦笑した。良い返しが思いつかず、沈黙が流れる。せっかく話しかけてくれたのに、不甲斐ない。
そんな時、園児たちが先生に連れられて外に出てきたので、私はホッとした。
「あ、終わったっぽいね。行こ」
「う、うん」
「クラスは?」
「えっと、さくら組だよ」
答えると、丸山さんは目を丸くした。
「一緒じゃん。うちの弟もさくら組だよ」
すごい偶然だ。姉と弟がそれぞれ同じ学校と保育園で、同じクラスだなんて。どんな確率だと思った。
「あ、お姉ちゃん!」
私を見つけたカズキが駆け寄ってくる。
そして、カズキは丸山さんの方を指さして言った。
「タイガくんのおねえちゃんもいる!」
「え?」
私は困惑しながら和樹と丸山さんを交互に見た。
「わーお。そんなことあるんだね。カズキくんのお姉ちゃんって、佐藤さんだったんだ」
丸山さんは言った。
「うちの弟が、仲良くしてもらっているみたいで。ほら来た、タイガ!」
丸山さんによく似た大きな目の男の子が嬉しそうに駆け寄ってきた。タイガという名前は、カズキとお母さんの会話の中でよく出てくるのを聞く。まさか、よりによって丸山さんの弟と和樹が仲良かったとは。
「ねー、おねえちゃん。ボクまだ遊びたい」
カズキがそんなことを言い出す。
「え? 何言ってるの」
私は一刻も早く帰りたい。
「タイガくん、いつもおねえちゃんと公園に行ってるんだって」
和樹は訴えるように言う。
「カズキも行っちゃだめ?」
勘弁してほしい。それはさすがに、私が気まずい。丸山さんだって、私なんかと一緒だったら嫌なはず。
私と丸山さんは正反対で、ちゃんと話すのも今日が初めてなの。私は緊張しすぎて、今すぐにでもここを逃げ出したいの。意気地のないお姉ちゃんでごめんね。と、心の中でカズキに謝った。
公園に行ったとして、カズキはタイガくんと仲良く遊ぶだろう。その間私たちは? 何を話せば良い?
「あたしはいつものことだから。佐藤さんが良いなら、別に一緒に行ってもかまわないけど」
丸山さんはそう言う。
私は頭をフル回転させる。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうすれば上手く断れる? 丸山さんだって、うちの和樹がそんなことを言った手前、拒否しにくかっただけかもしれない。
「俺も遊びたい。お願い、カズキのねえちゃん」
そんなタイガくんのとどめの一撃を受け、私は嫌とは言えずじまいに終わった。


