ハイライトとアイシャドウ

 グループを抜けることになった。
 整形を匂わせる発言から、メンバーは私への態度を硬化させていた。本音を打ち明けた百花からも積極的に誘われなくなり、自然と一人になった。
 同じ方向を向いていたはずの仲間と距離を置き、席に座り時間が過ぎるのを待つ。初日は背中に薄っすら汗をかき、クラスメイトの顔をまともに見れなかった。
 大壱は私が一人でいるのを見るなりすぐに声をかけてくれた。昼食はいつもの空き教室へ。あの日の放課後になにがあったのか、大壱は左耳を傾けて真剣に聞いてくれた。
「ちゃんと言えてよかったね」
「でも気まずくなっちゃった」
「棚橋さんには棚橋さんの思いがある。落ち着いたら話せるようになるよ。友達なんだろ」
「そうだね。きっと」
 仲違いしてしまった百花と仲良くなれるなんて、大壱も本気で思ってはいまい。おそらく私を励ますための優しい気休めだ。
 人間関係は脆い。薄いガラスでできたスノードームみたいだ。わずかな衝撃でヒビが入って、予想外のトラブルで簡単に割れる。だからこそ友達として仲良く過ごした日々はキラキラときらめき、記憶の中で淡く光るのだろう。
 一ヶ月ほど経つ頃には、百花がいない違和感は薄れてきた。寂しさは消えないが、大壱のおかげで楽しく過ごせている。
 休み時間にはわずかな時間を見つけておしゃべり。廊下でも気軽に声をかけてくれる。大壱の男友達や、大壱と交流のある女子生徒と話す機会も増えた。
 百花は相変わらず美しく目を惹く。しかし以前のような大人数では集まらず、数人と行動しているようだ。三城とのトラブルが原因で、グループは分裂したらしい。
 三城は百花の友人ではなかった。どうやら電車内で悪口を言っている生徒を探してガツンと言うためにグループに入り込んだらしい。
 百花の様子は気になるが、平均台を渡るような落ち着かない日が続き余裕はない。この先どうなるのかわからないけど、私には世間話ができるクラスメイトがいる。ひとまず学校には通えそうだ。
 放課後。大壱は手早く荷物をまとめ、片手を上げた。
「小嶋さんまた明日」
「また明日。部活がんばってね」
 定刻通りに終了した帰りのホームルーム。勉学から解放された生徒達の足音。下駄箱で靴を履き替えると、百花のぎこちない笑顔が待っていた。
「しずく、久しぶり」
「だね」
 会話が途切れる。
 一ヶ月ぶりなのに、一年越しに互いの顔を見た気がする。百花とは話題に困らなかったが、いまはなにが適切なのかわからない。
 目を逸らすと、声をかけられた。
「一緒に帰ろう」
「えっ」
「気まずいよね。話したくなければ、むりしてしゃべらなくてもいいよ。電車でほかの子を悪く言ったりもしない。だから一緒に……。私、しずくと一緒に帰りたいの」
 なぜか初めて百花に声をかけられたときを思い出した。春風のように現れて「名前は? おしゃべりしよーよ!」と言いながら、私の前の席に座った。ただそれだけなのに、世界に色がついて見えた。一人じゃないと思えた。
 目の前にいる百花にはあの日の明るさも華やかさもない。私達は変わってしまった。元には戻れない。けれど。
「……うん。わかった」
 百花の隣に並ぶ。足並みは揃わないし、視線の向きもバラバラだ。それでも私達は肩を並べる。いつかの帰り道を辿るようにして歩く。
〈了〉