春燦々。

この街の夜を照らすのは、数少ない車のヘッドライトと点々と立っている街灯に、寄せるように集まった家々。
高台から見据えると、向こう側にここよりずっと明るい街がみえる。
学校は小中高それぞれひとつずつ。
程々な大きさのスーパーとドラッグストア、評判のイマイチな市民病院に、学生の溜まり場になっている書店。
個人経営の小さな店が点々とある。
暮らしていくには困らない。
けれど、それ以外は何もない。
この街には、何もない。
都会の煌びやかなビル街も、高級車も、洒落た店も、異国風なレストランも、人も、何もない。
駅前に全国チェーンのファストフード店がひとつできただけで話題になる、そんな程度の街。新鮮さなんてものは、どこまで行ってもどこにもない。
この街の人同士はみんな知り合い。
毎日毎日代わり映えのしない日常。
この街だけ時間がゆっくり流れているみたいだ。
のどかといえば聞こえはいい。大人はきっとそれでいい。
僕は、それだと困る。
早く、早く時代にこの街が追いついて、僕はこの焦燥感から抜け出したい。
この小さい街で、僕の世界はふたつある。
その境界線で、四肢を別々に引っ張られているみたいだ。片方はじんわりと、片方は巻くように早く。
ブラックホールに落ちかけた人間のよう。
痛い。怖い。苦しい。
この何もない街で、何者かになっていく周りに置いていかれないよう必死な僕。