美奈が叫ぶのと、私が手を伸ばすのがほとんど同時だった。間一髪、私は美奈の腕を掴んだ。美奈も私の手をぎゅっと握りしめる。
「っ……」
もともと非力な私は、美奈一人を持ち上げられるほどの強さはない。少しずつ、美奈の方へ引っ張られる。終わりかもしれない。そう思った瞬間、異常なほどの力が込み上がってくる。火事場の馬鹿力というものだろうか。
再びぐっと力を込め、美奈を引きずりあげる。美奈が窓のへりをもち、ぐっと体を投げた。
「いった……」
「美奈、大丈夫?」
「うん、ありがと華純」
美奈が立ち上がり、私に手を差し伸べる。その手を握り、私も立ち上がった。窓から下を覗く。そこにまだあの美奈がいるような気がして、背中に悪寒がする。
「美奈、さ私が電話掛ける前どこにいた?」
「え? えっと、グラウンドの蛇口のとこだけど」
その答えを聞き、私は心臓を鷲掴みされたような衝撃が走った。美奈があそこにいなかったのだとしたら、私が見た美奈は一体何だったの?
あれは、誰。
「なにがあったの、華純」
美奈が私の肩を抱く。私は、言葉に詰まりながらもたどたどしく、さっき見たことを美奈に話した。
「私じゃない、私、そんなこと絶対言わない」
「だよね……」
この時、私たちは気づいたのだ。この学校になにかがいるということ、そして、凛香の身に科学では説明しきることのできない何かが起きていることを。
「華純、どうする。帰る?」
美奈がそう提案をしてくれた。私はその問いにすぐに答えを出せなかった。今でもこんなに膝が震えているのに、この普段とは絶対に起きないようなことがここから、もっと起きるかもしれない。
それでも私は、凛香を助けたい。
「帰らない、だって凛香は」
「私の友達だから!」
その返答に美奈はにこりと微笑んだ。怖さを理由に、友達を見捨てるなんてことは私達にはできない。
「じゃあ、いこっか」
「うん!」
スマホの電気をつけ、黒が広がる廊下を進む。暗い廊下に飲まれそうになる。美奈の手をぎゅっと握って、廊下を進んだ。五分くらい歩いただろうか、教室はどこも閉まっていて、入れもしなかった。
「廊下長くない?」
美奈が呟いた。確かに長い。階段もないし、同じような光景をずっと歩いているようだ。一歩、二歩と進むに連れその違和感は確かなものになっていく。横にいる美奈を見ると、外は冷たいはずなのに、汗が一筋垂れていた。水たまりを踏むたび、ピチャという水音が響く。窓から差し込む月明かりの光が時折、女の顔に見える。
「っあ、華純」
美奈が指を指す方向を見ると、一つだけドアが開いている教室があった。
「凛香が入ったかもしれないしさ、いってみよ」
美奈に手を引かれるがまま空き教室にはいる。綺麗に揃えられた机と、何も入っていないロッカーはもうこの教室に人がいないことをなんとなく知らせてくれる。でも基本は私たちが学校で見ている教室と何ら変わらない。そう、黒板に書かれている文字以外は。
黒板にはこう書かれていた。Aは窓側に座っている。そしてDより後ろ側の席ではない。Bの近くにはEしかいない。Cは教卓の近く。そしてAと横の列が同じ。DはAとCの間の列。Eは誰よりも一番うしろの席にいる。私はどこに座ればいい?
白色で書かれたそれは、謎解きのようだった。そして教卓には教室を上から見た図が書いてあり、そのうち、十個の机に丸が書いてあった。
「つまり、どういうこと?」
私が首を傾げる。美奈は紙をじいっと覗き込みながら教室を見回した。
「謎解きってことだよね」
紙にかかれている丸のついた机はまず窓側の列は前から二番目と六番目、二列目は三番目と五番目、三列目は一番目と六番目、四列目は二番目と四番目、五列目は三番目、六列目は四番目。
「丸多すぎて意味わかんないよ」
ぼやく私と違い、美奈は教壇に頬杖をついて独り言をつぶやいている。
「窓側ってことはAはここかここで……」
紙に書かれた丸を指さしながら口に出して整理している。その美奈を見て私は一つ気づいた。
「でもさ六番目だったらEさんは誰よりも一番うしろではなくない?」
私がそう言うと美奈は目を輝かせ、近くにあった鉛筆を取った。
「確かに、じゃあAさんは窓側の列の二番目で、てことはCさんとAさんは横の列が同じだから」
「四列目の二番目!」
二人で一人ひとりの席を暴いていきながら、美奈が紙にAとCを書き込む。
「結構簡単な謎解きだね」
「私一人だったら絶対解けてなかったけどね……」
「でもこの私はどこに座ればいいってどういうことだろ」
美奈が首を傾げる。確かに、この言葉だけ意味がわからない。
「えっととりあえず、他の人達の席を探すか」
「そうだね」
「DはAとCの間の列ってことは二列目か三列目だよねでも二列目の三番目と五番目だったらAの条件に矛盾するから」
「三列目の一番目」
「Eは……窓側の列の六番目か三列目の六番目だよね」
美奈が紙と教室を交互に見ながらんーと考えていた。
「ん?」
「これ、どっちでもいける」
目を見開く美奈を見て、思わず声が漏れた。
「え?」
「だって、Bの近くってことはそのどちらだったとしてもBはほら」
「二列目の五番目になるのか」
「うん、それに、どっちにしても矛盾しないし」
美奈の説明はわかりやすい。確かにこれだったらどちらでも正解だ。
「とりあえず、三列目の六番目にしとこ」
「でも、私はどこに座ればいいってなに?」
空き教室の謎解きは意味のわからない文で正解にはすぐにたどり着けなかった。
「っ……」
もともと非力な私は、美奈一人を持ち上げられるほどの強さはない。少しずつ、美奈の方へ引っ張られる。終わりかもしれない。そう思った瞬間、異常なほどの力が込み上がってくる。火事場の馬鹿力というものだろうか。
再びぐっと力を込め、美奈を引きずりあげる。美奈が窓のへりをもち、ぐっと体を投げた。
「いった……」
「美奈、大丈夫?」
「うん、ありがと華純」
美奈が立ち上がり、私に手を差し伸べる。その手を握り、私も立ち上がった。窓から下を覗く。そこにまだあの美奈がいるような気がして、背中に悪寒がする。
「美奈、さ私が電話掛ける前どこにいた?」
「え? えっと、グラウンドの蛇口のとこだけど」
その答えを聞き、私は心臓を鷲掴みされたような衝撃が走った。美奈があそこにいなかったのだとしたら、私が見た美奈は一体何だったの?
あれは、誰。
「なにがあったの、華純」
美奈が私の肩を抱く。私は、言葉に詰まりながらもたどたどしく、さっき見たことを美奈に話した。
「私じゃない、私、そんなこと絶対言わない」
「だよね……」
この時、私たちは気づいたのだ。この学校になにかがいるということ、そして、凛香の身に科学では説明しきることのできない何かが起きていることを。
「華純、どうする。帰る?」
美奈がそう提案をしてくれた。私はその問いにすぐに答えを出せなかった。今でもこんなに膝が震えているのに、この普段とは絶対に起きないようなことがここから、もっと起きるかもしれない。
それでも私は、凛香を助けたい。
「帰らない、だって凛香は」
「私の友達だから!」
その返答に美奈はにこりと微笑んだ。怖さを理由に、友達を見捨てるなんてことは私達にはできない。
「じゃあ、いこっか」
「うん!」
スマホの電気をつけ、黒が広がる廊下を進む。暗い廊下に飲まれそうになる。美奈の手をぎゅっと握って、廊下を進んだ。五分くらい歩いただろうか、教室はどこも閉まっていて、入れもしなかった。
「廊下長くない?」
美奈が呟いた。確かに長い。階段もないし、同じような光景をずっと歩いているようだ。一歩、二歩と進むに連れその違和感は確かなものになっていく。横にいる美奈を見ると、外は冷たいはずなのに、汗が一筋垂れていた。水たまりを踏むたび、ピチャという水音が響く。窓から差し込む月明かりの光が時折、女の顔に見える。
「っあ、華純」
美奈が指を指す方向を見ると、一つだけドアが開いている教室があった。
「凛香が入ったかもしれないしさ、いってみよ」
美奈に手を引かれるがまま空き教室にはいる。綺麗に揃えられた机と、何も入っていないロッカーはもうこの教室に人がいないことをなんとなく知らせてくれる。でも基本は私たちが学校で見ている教室と何ら変わらない。そう、黒板に書かれている文字以外は。
黒板にはこう書かれていた。Aは窓側に座っている。そしてDより後ろ側の席ではない。Bの近くにはEしかいない。Cは教卓の近く。そしてAと横の列が同じ。DはAとCの間の列。Eは誰よりも一番うしろの席にいる。私はどこに座ればいい?
白色で書かれたそれは、謎解きのようだった。そして教卓には教室を上から見た図が書いてあり、そのうち、十個の机に丸が書いてあった。
「つまり、どういうこと?」
私が首を傾げる。美奈は紙をじいっと覗き込みながら教室を見回した。
「謎解きってことだよね」
紙にかかれている丸のついた机はまず窓側の列は前から二番目と六番目、二列目は三番目と五番目、三列目は一番目と六番目、四列目は二番目と四番目、五列目は三番目、六列目は四番目。
「丸多すぎて意味わかんないよ」
ぼやく私と違い、美奈は教壇に頬杖をついて独り言をつぶやいている。
「窓側ってことはAはここかここで……」
紙に書かれた丸を指さしながら口に出して整理している。その美奈を見て私は一つ気づいた。
「でもさ六番目だったらEさんは誰よりも一番うしろではなくない?」
私がそう言うと美奈は目を輝かせ、近くにあった鉛筆を取った。
「確かに、じゃあAさんは窓側の列の二番目で、てことはCさんとAさんは横の列が同じだから」
「四列目の二番目!」
二人で一人ひとりの席を暴いていきながら、美奈が紙にAとCを書き込む。
「結構簡単な謎解きだね」
「私一人だったら絶対解けてなかったけどね……」
「でもこの私はどこに座ればいいってどういうことだろ」
美奈が首を傾げる。確かに、この言葉だけ意味がわからない。
「えっととりあえず、他の人達の席を探すか」
「そうだね」
「DはAとCの間の列ってことは二列目か三列目だよねでも二列目の三番目と五番目だったらAの条件に矛盾するから」
「三列目の一番目」
「Eは……窓側の列の六番目か三列目の六番目だよね」
美奈が紙と教室を交互に見ながらんーと考えていた。
「ん?」
「これ、どっちでもいける」
目を見開く美奈を見て、思わず声が漏れた。
「え?」
「だって、Bの近くってことはそのどちらだったとしてもBはほら」
「二列目の五番目になるのか」
「うん、それに、どっちにしても矛盾しないし」
美奈の説明はわかりやすい。確かにこれだったらどちらでも正解だ。
「とりあえず、三列目の六番目にしとこ」
「でも、私はどこに座ればいいってなに?」
空き教室の謎解きは意味のわからない文で正解にはすぐにたどり着けなかった。


