「うーん……」
美奈が顎に手を添えて考える。美奈を真似して自分も顎に手を添えてみるが、いい考えは浮かばない。美奈が「んー」と背伸びをする。
「とりあえず、引き返してまた校舎周り見て、台とかになるもの探す?」
「おおジーニアス美奈!」
「おっけ、じゃ行こっか」
パチンと手を合わせ、くるりと踵を返した。
歩き始めて数分程度経った頃校舎に畳まれた段ボールがあることに気がついた。
「美奈、あれ使えないかな?」
「お、ギリギリ使えるかも!」
小走りで段ボールへ向かう。一つ一つの厚みがあるし、十数個ある。これならきっといい台になる。問題はバランスだが……。
「とりあえず持っていってみよっか」
そう言って段ボールを手に取る。放置されていたからか、煤やホコリを被っていて汚い。しかもサイズもそこそこあるから、運ぶのが難しい。
「よいしょ……っと」
換気扇の上に段ボールを乗せる。少しグラグラしていて、この上に乗るのはかなり危険だ……が凛香のためだ。頑張ろう。
「こんくらいでいいかな? よし、華純、おいで」
美奈が手を広げる。抱いて上に上げるから、という意味なのだろう。私はティーのポーズをしたまま近づき、美奈に持ち上げてもらう。
「美奈はどうするの?」
「私は……華純が中入ったら、外よりも台になるものあると思う。探してきてほしい」
「わかった」
換気扇と積まれた段ボールの上に乗る。やはりグラグラしている。早く学校に入らないと崩れてしまう。震える腕を伸ばし、学校の窓の縁を掴む。腕力でぐっと掴みながら、体を投げ出すようにして学校の中に入った。
しかしその瞬間、乾いたバラバラという音が聞こえた。段ボールが崩れたのだろう。
「美奈! ちょっと待っててね」
「オッケー、気をつけてよ! 華純」
暗い学校を進む。ポケットからスマホを取り出し、明かりで廊下を照らした。廊下はとにかく誇りがすごくて、ところどころに水たまりがあった。水たまりを避けながら、光を周囲に向ける。
「うーん……なんか使えるの」
光を周囲に向けるほど、廃校の雰囲気が痛いほどに心に染み渡る。昔は、私が普段見ている明るい廊下と変わらない景色があったはずなのに、どうしてだろう。怖いし、すごく気味が悪い……。色んなところから視線を感じる気がする。廃校だから、人なんているはずないと自分に言い聞かせながら進む。
「あ、これ使えるかな?」
階段近くに立てかけてあった台を手に取る。しかし足の部分がボロボロで、使い物にならなそうだ。
「……もー、てか凛香探して合流したほうが早いんじゃない?」
「あ、でも凛香がこの学校のどこにいるのかわかってないのか」
「やっぱ、美奈いないとだめだなぁ、私」
自嘲するように笑う。顔を上げると女の顔が見えた。その顔は驚くほど白く、目は開ききっていて眼球が飛び出そうなほどだった。
「ひッ」
怯えた声が出る。瞬きをして、目を開くとそこにはただの階段があった。
きっと見間違えだ。そんな考えを巡らせるがさっきみたことが頭に張り付いて離れない。見間違え、という考えもさっきの記憶が一蹴してしまう。
そして私はもう一つ考えたことがあった。凛香からのライン、本当になにかに取り憑かれんじゃないの? あくまで仮説。それに、科学的に考えたらお化けなんていない。けれど私は見た。本当にさっき
「……美奈」
手をぎゅっと握りしめ、体を丸めた。恐怖で体が動かない。自分の手が驚くほどに震えている。美奈と、早く合流したい。じゃなきゃ、私一人じゃ……!
震えるからだを無理やり立たせる。再びスマホを取り出し、周りを見た。すると、一つだけ教室が空いていることに気づく。中には掃除ロッカーと、脚立があった。
「なんで空き教室に脚立……?」
「まいっかそんなこと、これなら行けるでしょ!」
脚立を手に取り、持ち上げる。錆びた鉄の臭いが鼻を刺す。脚立を一人で持つのは流石にキツく、引きずるようになってしまう。
「おっもいよ!」
文句をつぶやきながら美奈のいる換気扇の窓まで歩く。暗い中を感覚と、月光だけを頼りに進む。途中、水たまりをボチャンと踏んでしまう。靴下が少しだけ濡れて気持ち悪い。やっとのことで窓までたどり着く。脚立を壁に立てかけて窓から下を覗く。
「美奈!」
「あ、華純」
美奈が下から見上げる。にっこりと微笑んでいる。
「華純、早く」
その声色は少し嬉しそうで、だけども焦っているように感じた。私は、それがすごく不気味で、すぐに脚立を渡せなかった。
「なにしてるの?」
美奈が聞いてくる。その声はすごく不機嫌そうで、声が低い。
「華純っていつもそうだよね、私に頼ってばっかでさ」
「頼まれたこともすぐにできない、なんのために」
おかしい。
直感でそう感じる。美奈はこんなことを言わない。だって、ずっと一緒にいて、お互い頼り合ってきたんだ。
「誰、あなた」
声が震えているのが分かる。風のびゅおおとした音と共に、美奈と似ても似つかない言葉が聞こえてきた。
「ばれちゃった?」
その声は後ろから、いや耳元から聞こえてきた。驚きで振り返ると、そこには底なしの暗闇があるだけだった。視線を再び窓の下に戻すとそこに美奈はいなく、ただの地面が広がっていた。
「もうやだ……」
スマホの画面を操作し、LINEを開く。トーク履歴の上位には凛香がいたままだ。美奈のLINEを開き、電話をかける。
「美奈、脚立、見つけたから戻ってきて!」
「どうしたの? そんな焦って」
電話越しの美奈でも分かるくらいに、私の声はぶるぶる震えていて、上ずっていた。
「あー、おっけい」
ブツッと電話が切れる。数分待つと、タッタッタという足音が聞こえてきた。再び窓から下を見ると肩を上下に揺らす美奈が見えた。
「美奈!」
「華純! 大丈夫?」
「だいじょうぶ! えっと、これ! 脚立」
私が脚立をふんっと持ち上げ、窓から出した。重くて落ちないか心配だが、ゆっくりと下に下ろす。
「離していいよー」
美奈のその声で脚立から手を離す。美奈が「こうかな……」とつぶやきながら脚立を壁に立てかけている。その様子を見ながら、さっきの様子がおかしい美奈の姿を思い出す。あれは見た目は美奈だった。けれど、最後の「ばれちゃった?」という言葉や、私のことを微塵も気遣っていないようなあの態度。確実に美奈ではない。
じゃあ、誰?
その疑問を突き破るように、美奈の声が響いた。
「登るよー!」
「あっ、はーい」
美奈が登ってくる。脚立が時折ぐらっとなるのが怖い。あともうちょっとで届く。その瞬間、風が強く吹き付けた。少し不安定だった脚立が、風に煽られて大きくぐらっと揺れた。
美奈の体が、空中に投げ出される。
「っ華純!」
美奈が顎に手を添えて考える。美奈を真似して自分も顎に手を添えてみるが、いい考えは浮かばない。美奈が「んー」と背伸びをする。
「とりあえず、引き返してまた校舎周り見て、台とかになるもの探す?」
「おおジーニアス美奈!」
「おっけ、じゃ行こっか」
パチンと手を合わせ、くるりと踵を返した。
歩き始めて数分程度経った頃校舎に畳まれた段ボールがあることに気がついた。
「美奈、あれ使えないかな?」
「お、ギリギリ使えるかも!」
小走りで段ボールへ向かう。一つ一つの厚みがあるし、十数個ある。これならきっといい台になる。問題はバランスだが……。
「とりあえず持っていってみよっか」
そう言って段ボールを手に取る。放置されていたからか、煤やホコリを被っていて汚い。しかもサイズもそこそこあるから、運ぶのが難しい。
「よいしょ……っと」
換気扇の上に段ボールを乗せる。少しグラグラしていて、この上に乗るのはかなり危険だ……が凛香のためだ。頑張ろう。
「こんくらいでいいかな? よし、華純、おいで」
美奈が手を広げる。抱いて上に上げるから、という意味なのだろう。私はティーのポーズをしたまま近づき、美奈に持ち上げてもらう。
「美奈はどうするの?」
「私は……華純が中入ったら、外よりも台になるものあると思う。探してきてほしい」
「わかった」
換気扇と積まれた段ボールの上に乗る。やはりグラグラしている。早く学校に入らないと崩れてしまう。震える腕を伸ばし、学校の窓の縁を掴む。腕力でぐっと掴みながら、体を投げ出すようにして学校の中に入った。
しかしその瞬間、乾いたバラバラという音が聞こえた。段ボールが崩れたのだろう。
「美奈! ちょっと待っててね」
「オッケー、気をつけてよ! 華純」
暗い学校を進む。ポケットからスマホを取り出し、明かりで廊下を照らした。廊下はとにかく誇りがすごくて、ところどころに水たまりがあった。水たまりを避けながら、光を周囲に向ける。
「うーん……なんか使えるの」
光を周囲に向けるほど、廃校の雰囲気が痛いほどに心に染み渡る。昔は、私が普段見ている明るい廊下と変わらない景色があったはずなのに、どうしてだろう。怖いし、すごく気味が悪い……。色んなところから視線を感じる気がする。廃校だから、人なんているはずないと自分に言い聞かせながら進む。
「あ、これ使えるかな?」
階段近くに立てかけてあった台を手に取る。しかし足の部分がボロボロで、使い物にならなそうだ。
「……もー、てか凛香探して合流したほうが早いんじゃない?」
「あ、でも凛香がこの学校のどこにいるのかわかってないのか」
「やっぱ、美奈いないとだめだなぁ、私」
自嘲するように笑う。顔を上げると女の顔が見えた。その顔は驚くほど白く、目は開ききっていて眼球が飛び出そうなほどだった。
「ひッ」
怯えた声が出る。瞬きをして、目を開くとそこにはただの階段があった。
きっと見間違えだ。そんな考えを巡らせるがさっきみたことが頭に張り付いて離れない。見間違え、という考えもさっきの記憶が一蹴してしまう。
そして私はもう一つ考えたことがあった。凛香からのライン、本当になにかに取り憑かれんじゃないの? あくまで仮説。それに、科学的に考えたらお化けなんていない。けれど私は見た。本当にさっき
「……美奈」
手をぎゅっと握りしめ、体を丸めた。恐怖で体が動かない。自分の手が驚くほどに震えている。美奈と、早く合流したい。じゃなきゃ、私一人じゃ……!
震えるからだを無理やり立たせる。再びスマホを取り出し、周りを見た。すると、一つだけ教室が空いていることに気づく。中には掃除ロッカーと、脚立があった。
「なんで空き教室に脚立……?」
「まいっかそんなこと、これなら行けるでしょ!」
脚立を手に取り、持ち上げる。錆びた鉄の臭いが鼻を刺す。脚立を一人で持つのは流石にキツく、引きずるようになってしまう。
「おっもいよ!」
文句をつぶやきながら美奈のいる換気扇の窓まで歩く。暗い中を感覚と、月光だけを頼りに進む。途中、水たまりをボチャンと踏んでしまう。靴下が少しだけ濡れて気持ち悪い。やっとのことで窓までたどり着く。脚立を壁に立てかけて窓から下を覗く。
「美奈!」
「あ、華純」
美奈が下から見上げる。にっこりと微笑んでいる。
「華純、早く」
その声色は少し嬉しそうで、だけども焦っているように感じた。私は、それがすごく不気味で、すぐに脚立を渡せなかった。
「なにしてるの?」
美奈が聞いてくる。その声はすごく不機嫌そうで、声が低い。
「華純っていつもそうだよね、私に頼ってばっかでさ」
「頼まれたこともすぐにできない、なんのために」
おかしい。
直感でそう感じる。美奈はこんなことを言わない。だって、ずっと一緒にいて、お互い頼り合ってきたんだ。
「誰、あなた」
声が震えているのが分かる。風のびゅおおとした音と共に、美奈と似ても似つかない言葉が聞こえてきた。
「ばれちゃった?」
その声は後ろから、いや耳元から聞こえてきた。驚きで振り返ると、そこには底なしの暗闇があるだけだった。視線を再び窓の下に戻すとそこに美奈はいなく、ただの地面が広がっていた。
「もうやだ……」
スマホの画面を操作し、LINEを開く。トーク履歴の上位には凛香がいたままだ。美奈のLINEを開き、電話をかける。
「美奈、脚立、見つけたから戻ってきて!」
「どうしたの? そんな焦って」
電話越しの美奈でも分かるくらいに、私の声はぶるぶる震えていて、上ずっていた。
「あー、おっけい」
ブツッと電話が切れる。数分待つと、タッタッタという足音が聞こえてきた。再び窓から下を見ると肩を上下に揺らす美奈が見えた。
「美奈!」
「華純! 大丈夫?」
「だいじょうぶ! えっと、これ! 脚立」
私が脚立をふんっと持ち上げ、窓から出した。重くて落ちないか心配だが、ゆっくりと下に下ろす。
「離していいよー」
美奈のその声で脚立から手を離す。美奈が「こうかな……」とつぶやきながら脚立を壁に立てかけている。その様子を見ながら、さっきの様子がおかしい美奈の姿を思い出す。あれは見た目は美奈だった。けれど、最後の「ばれちゃった?」という言葉や、私のことを微塵も気遣っていないようなあの態度。確実に美奈ではない。
じゃあ、誰?
その疑問を突き破るように、美奈の声が響いた。
「登るよー!」
「あっ、はーい」
美奈が登ってくる。脚立が時折ぐらっとなるのが怖い。あともうちょっとで届く。その瞬間、風が強く吹き付けた。少し不安定だった脚立が、風に煽られて大きくぐらっと揺れた。
美奈の体が、空中に投げ出される。
「っ華純!」


