トモダチ学校

私はいつものように、美奈と電話をしていた。
月が雲から出てきて、私を窓越しに照らす。その瞬間、ピコンと通知音が鳴った。それは親友の凛香からのLINEだった。
「ちょっとまって、凛香からLINE」
「おけ」
なにか忘れ物でもしたのかな。そう思ってトーク画面を開くとそこには文字化けしたLINEが届いていた。今まで見たことのない言葉に変な胸騒ぎがする。
「なに、これ」
動揺する私と打って変わって、スマホから美奈の間延びした声が聞こえてくる。
「どうしたの?」
「なんか、凛香から」
説明をしているとまた文字化けしたLINEが届く。何件も、いや何十件も。胸騒ぎがどっどっとした緊迫感の鼓動に変わる。
「凛香、から、変なLINEが来て」
「なにー? どんなの?」
「なんかっ、文字化けしたやつ」
私の声を聞いて、やばいと察知したのだろう。美奈の声色も恐怖のそれに変わった。
「凛香さ、肝試し行くって言ってなかった?」
「言ってた、しかも、一人で……」
「なんか、ヤバいのに取り憑かれたりしたんじゃ……」
数秒の沈黙が落ちる。普段なら「そんなわけないじゃーん」と一蹴できたが、文字化けのLINEが何十件も送られてくるだなんてそんなの普通じゃない。背中がすうっと冷えていくのを感じる。
「私、凛香のとこいってくる」
「は!? 華純何いってんの」
「いって、なにもなかったら、一緒に帰ってくるよ」
美奈との通話をつなげたまま、私はパジャマから近くにあった服に着替え始める。
「なんかあったらどうすんの」
「そうしたら……その時考える」
「ばっかじゃないの」
呆れたような声で美奈が私を止める。
「でも……きっと、なんてことないって」
「大丈夫」
震える足を前に出しながら、私は家を出た。
出て最初に感じるのは鈴虫の音。普段なら豊かなこの音を楽しむが、今はそんな余裕はない。鈴虫の音も、心なしか不穏に聞こえる。そして次に感じるのは風の強さだ。上着を着てきて正解だったな。なんて考える。
「さて、行こう」
自転車に乗り、田舎道を進んでいく。街灯がほとんどなく、自転車のライトに頼りきりで目的地に向かう。どこの家の照明ももう暗くなっている。そりゃそうか、こんな深夜だし。
「凛香は確か、あっこ、廃校に行くって言ってたな」
「……行こう」
自転車を走らせると、時々小枝のパキッという音が聞こえる。上着を着ていても夜は寒くて、身震いしてしまう。寒さに凍えていると、廃校についた。
いつだったか忘れてしまったが、この中学校、昔は人が多かったらしいけど、十年前位から生徒が一気に減って、とうとう少し遠い中学校と合併されてしまったらしい。校門には学約山星月校(がくやくさんせいげつこう)学約山星月校と書かれている校舎には少しだけつるがはり、校庭に雑草が生い茂っている。廃校はおどろおどろしい独特の雰囲気を醸し出していて、私は思わずたじろぐ。
「華純!」
後ろから私を呼ぶ声がする。この声は
「美奈、なんで?」
振り返るとそこには美奈がいた。走ってきたのか息が上がっている。
「華純一人じゃ、心配だからさ」
「美奈……!」
思わず美奈の手を取り喜ぶ。美奈が来てくれたからか、恐怖心が少しだけ緩む。私たちは一緒に封鎖された校門を飛び越えた。鈴虫の音も、吹き付ける風も、いつの間にか止んでいた。けれど、背中の嫌な汗から来る冷たさだけは無くならなかった。
「凛香どうやって入ったんだろこれ……」
あたりまえといえばそうだが、正面玄関や裏口などは、全て閉鎖されていた。美奈と二人で校舎の周りを歩く。
「あ、ここじゃない?」
美奈が指さした先にあったのは、換気扇と、その少し上にある開きっぱなしの窓だった。
「そっか、凛香運動神経いいから!」
「でもどうする? 私たち飛んであの窓にしがみつくは無理でしょ」
「うーん……」
換気扇を前に、私たちはどうすればあの窓から学校に入ることができるか、という壁にあたった。