白み始めて薄青色の層を成した午前4時。
片膝立てて腰を下ろしたベランダには、hi-liteから伸びる煙が所在なさげにしている。
——もう随分と前になるが、私が煙草を吸おうと思ったのはなんとなく、ため息が増えたと実感した時だった。
……ただ漠然と、「今煙草を吸っていたら、このブルーな気分に色がつくのだろうか」と思う機会が増えたのだ。ため息をつくたびに、そうした情念が脳裏を過ぎるようになった。
そんな私の淡い期待が寄せられた代物は、どうやらこの薄ら暗い何かを霧で覆い隠すことだけには効能があるようであった。思わず天を仰いでしまっていたキック感も、今では物足りない。灰の中で仄かに揺らぐ蛍火だけが、私の中で満足感に似た何かを演出する。
煙の染みた目から不意に流れる水滴が、安いファンデと混ざりながら濁り落ちていくのを見ると、まるで地面に落ちていく灰のような苛立ちが積もっていく。終電を降りた駅から臨んだやけに大きく映る黄ばんだ月もどこかへ消え、静止画を眺めていたはずの歪んだベランダに、憎たらしい太陽とかいうやつが姿を見せ始めているこの今という時間に、私は今日も届く宛てのない毒を吐くのである。
なんて皮肉に満ちた世界だろうか。無情で無常というのが正しいだろうか。
いつだって私は、世界にとって都合の良い存在であった。
相対する人しない人、相対化して「私」は在った。
ピックを握る右手で、前人たちの見た色を奏でてきた。
煙草を握る右手で、私の中の惣闇空に雲を描き足してきた。
何も持たない右手で、私は何をできるのだろうか。
考えた先に、いつだって答えはなかった。
主人公である必要はなかったのだ。登場人物であることが出来れば。
エンドロールに刻まれるだけでよかった。記憶に刻まれる必要はなかった。
そんな過ぎた願いは、子どもの頃に残してきた。願うからこそ上を見るのだ。
天井に吊られたものが見つめるのはいつも下ばかりで、私も例外になかったのだ。
前だって、後ろだって、見ることを拒否した私が今こうして遠くを眺めているだけでよく出来ているのだ。
数ミリばかり残された蛍火を、きっとステンレスを曲げただけのものであろう鈍い銀色をした器に残して立ち上がる。今日はもうお仕舞いだ。私の顔は、朝には向かない。
窓とカーテンを閉め切った空間には、まだ夜が広がっている。誰からも隔絶された2LDKも、広すぎるとは感じなかった。結末くらい、都合よくあれよ。
片膝立てて腰を下ろしたベランダには、hi-liteから伸びる煙が所在なさげにしている。
——もう随分と前になるが、私が煙草を吸おうと思ったのはなんとなく、ため息が増えたと実感した時だった。
……ただ漠然と、「今煙草を吸っていたら、このブルーな気分に色がつくのだろうか」と思う機会が増えたのだ。ため息をつくたびに、そうした情念が脳裏を過ぎるようになった。
そんな私の淡い期待が寄せられた代物は、どうやらこの薄ら暗い何かを霧で覆い隠すことだけには効能があるようであった。思わず天を仰いでしまっていたキック感も、今では物足りない。灰の中で仄かに揺らぐ蛍火だけが、私の中で満足感に似た何かを演出する。
煙の染みた目から不意に流れる水滴が、安いファンデと混ざりながら濁り落ちていくのを見ると、まるで地面に落ちていく灰のような苛立ちが積もっていく。終電を降りた駅から臨んだやけに大きく映る黄ばんだ月もどこかへ消え、静止画を眺めていたはずの歪んだベランダに、憎たらしい太陽とかいうやつが姿を見せ始めているこの今という時間に、私は今日も届く宛てのない毒を吐くのである。
なんて皮肉に満ちた世界だろうか。無情で無常というのが正しいだろうか。
いつだって私は、世界にとって都合の良い存在であった。
相対する人しない人、相対化して「私」は在った。
ピックを握る右手で、前人たちの見た色を奏でてきた。
煙草を握る右手で、私の中の惣闇空に雲を描き足してきた。
何も持たない右手で、私は何をできるのだろうか。
考えた先に、いつだって答えはなかった。
主人公である必要はなかったのだ。登場人物であることが出来れば。
エンドロールに刻まれるだけでよかった。記憶に刻まれる必要はなかった。
そんな過ぎた願いは、子どもの頃に残してきた。願うからこそ上を見るのだ。
天井に吊られたものが見つめるのはいつも下ばかりで、私も例外になかったのだ。
前だって、後ろだって、見ることを拒否した私が今こうして遠くを眺めているだけでよく出来ているのだ。
数ミリばかり残された蛍火を、きっとステンレスを曲げただけのものであろう鈍い銀色をした器に残して立ち上がる。今日はもうお仕舞いだ。私の顔は、朝には向かない。
窓とカーテンを閉め切った空間には、まだ夜が広がっている。誰からも隔絶された2LDKも、広すぎるとは感じなかった。結末くらい、都合よくあれよ。
