麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋~身分を隠す黒髪乙女は、命を救った一途な軍人に愛される~

「……ただの市井の護符屋です。名もなき老人が道楽で書いたのでは?」
 書いた人には会えず、ただ在庫品を買っただけだと悠一朗は告げる。
 
「その者の身元を洗え! すぐに軍で召し抱えろ!」
「軍で……ですか?」
「まずはその護符の価値を確認しなくては」
 霊力がわかる烏丸が言うのであれば間違いないとは思うが……と付け加えながら、佐伯は依頼状をしたため始める。
 
 佐伯大将は権力と霊力への執着が人一倍強い男。
 もし、凛子の霊力を知られれば、間違いなく政治の道具として利用され、自由を奪われることになる。
 やはり烏丸邸に連れて行って正解だった。
 
「もう良い、下がれ」
「はっ。失礼いたします」
 敬礼を返し、参謀総長室を後にした悠一朗は、軍帽のひさしを深めにかぶり直した。
 足を早め、待たせてある車へと向かう。
 
 自分でもなぜあの黒髪の娘を庇ったのかわからない。
 佐伯参謀総長に引き渡せば、自分の将来が約束されそうなのに。
 だが、佐伯参謀総長のあのギラついた眼を見た瞬間、凛子を隠さなければ、守らなくてはならないと思った。
 
 十五年間、己の心を占め続けてきたのは「金の髪の乙女」ただひとり。
 それなのに、今日出会ったばかりの黒髪の娘、凛子のことが、頭から離れようとしない。
 悠一朗は胸の奥で渦巻く正体のわからない思いを抱えながら、屋敷へと車を急がせた。
 
    ◇
 
 屋敷の前に横付けされた黒塗りの車から降りた悠一朗と目が合った凛子は、窓枠越しにペコリと頭を下げた。
 無視するわけにもいかず、あいさつ程度に頭を下げただけだったのに、そのまま富士の間までやってきた悠一朗に凛子は驚いた。
 
「おかえりなさいませ」
「あぁ。今、戻った」
 知っています。帰って来たところを見ていました。なんて言えないけれど。
 
「参謀総長が、西門の護符を書いた者を探し始めた」
 悠一朗は低く重い声で切り出す。
 
「すべての門の護符を書いてもらうつもりだったが、取りやめだ。おまえが目立てば、いずれ参謀総長の耳に入り、この屋敷まで探索の手が伸びる」
「では私を元の店に……」 
「それはできない。参謀総長が探していると言っただろう」
 捕まれば一生軍から逃れられないと、悠一朗は眉をひそめた。