麒麟の護符師と冷徹将校の十五年目の初恋

「私は護符師として連れてこられただけです」
「……左様でございますか。差し出がましいことを申しました。お許しください」
「……いえ」
 女性の護符師は珍しいのだろうか。
 いや、この家を見る限り、あの人は身分が高い。
 きっと近づいてくる女性が多いのだろう。

 でも、私は無理やり連れてこられたんですから!

「あの、お屋敷の中を案内していただけないでしょうか? 綺麗なお庭なので見に行きたくて」
「悠一朗様がお戻りになるまで、部屋でお待ちください」
「……わかりました」
 凛子は執事と一緒に富士の間に戻らされる。
 パタンと閉まった扉を確認した凛子は、盛大な溜息をついた。

 あの人が戻る前に逃げ出すのは失敗だわ。
 それに、ここを逃げた後はどうしよう。
 西門のあの店はもう使えない。
 せっかく人々の中にうまく溶け込めていたのに。

「富士山は今日もとっても綺麗ね」
 でも、ここから樹海はだいぶ遠そうだ。

「本当に勝手ね」
 凛子は肩をすくめると、窓から見える景色をしばらく眺めることにした。

    ◇

 軍に戻った悠一朗は、西門のあやかし討伐と新しい護符の貼り付け完了を佐伯参謀総長に報告した。
 
「すぐに新しい護符を用意せねばな」
「その必要はありません、佐伯大将」
 参謀総長に悠一朗は表情一つ変えずに大丈夫だと告げた。
 
「今後数年、あの門から入ることができるあやかしはいないでしょう」
「なんだと?」
「通りすがりの名もなき旅の護符師から買い取ったものですが、効果は上々です」
 出会ったのは偶然だったと悠一朗は説明する。
 佐伯は手にしていた書類をバサリと机に叩きつけ、身を乗り出した。
 
「そんな護符師が帝都にいたとは! 一体誰だ? どの流派の者だ!」
 その目は怪しく光り、ギラギラとした欲望の色を帯びている。
 詰め寄ってくる佐伯の眼光に、悠一朗は不快感を隠すようにわずかに目を細めた。